予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

民訴初学者

最近は、時間が空くと『ライブ争点整理』(後から法教410号も)と『民事訴訟第一審手続の解説』を読んでいます。(『アクチュアル民事の訴訟』と『よくわかる民事裁判 平凡吉訴訟日記』はもう読みました。)

穴があくまで読めば、民訴の基礎知識はなんとかなるだろうか。。。

 

その後、参照文献が明示されている概説書など(長谷部民訴、遠藤演習、勅使河原『読解民事訴訟法』)を比べ読みしたり、『設題解説民事訴訟法(二)』を読んでいます。

H27司法試験 憲法

設問1(1)

(公務員関係は公法関係ではあるが、A市と公務に就任する者との合意にもとづき成立するのであって、とりわけすべての公務員が任用により公務員関係にはいる現行の公務員法制の下では、公務員関係に私法の適用を排除する理由はない。*1正式採用拒否行為は、採用のときに留保していた解雇権を試用期間満了時に行使するものと解すべきである。)

正式採用拒否行為は、客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当でないとき、裁量権を逸脱又は濫用した違法な行為であると解される。成績主義を採用するわが国の公務員法制の下では、A市には一方で勤務実績が優れた者の正式採用を拒否し、他方で勤務実績の劣った者を採用する余地はなく、Bの不採用は、客観的に合理的な理由を欠き裁量権を逸脱又は濫用した違法である。

同時に、合理的な理由のない別異取扱い、特に憲法14条1項後段に列挙された信条を理由とする別異取扱いであって、平等原則に違反し違法である。

(2)

客観的に合理的な理由の有無

正式採用拒否の客観的に合理的な理由には、Bの勤務実績のみならず、ひろくY対策課の職員としての適格性を含む。Y対策課の設置目的は採掘事業の安全性確保だけでなく、採掘事業の安全性に対する信頼を確保することも含み、Yの安全性に関する広報活動を業務に含む。BはY採掘事業に批判的な見解の持ち主であって、広報活動に不適格である。

社会通念上相当か

既に正式採用した者を分限免職する場合よりも、社会通念上相当であることは緩やかに肯定されるべきである。A市としてBに対し自らの見解を改めるように指導することが、Bの思想・信条の自由を侵害することとなり許されない以上、正式採用を拒否することは社会通念上相当である。

設問2

A市は正式採用をするか否かを判断するに当たり、勤務成績を含めてひろく採用候補者の適格性を判断し、その理由とすることができる。広報活動には、Y採掘事業に関する客観的・中立的な情報の提供やY採掘事業に関して反対派を含む市民と関係者との相互理解を促すことなども含まれるから、BがY採掘事業に批判的な見解の持ち主だからといって、直ちにYが適格性に欠けると判断する理由にはならない。また、CのようなY対策課の業務を妨害するおそれも認められない。よって、勤務成績が相対的に優れているBの正式採用を拒否する合理的な理由はなく、正式採用拒否は平等原則に違反し国賠法上違法である。

 

表現の自由

Bのシンポジウムにおける発言は、自己実現の価値を有するのみならず、政治的言論としての性格を有する点で民主的政治過程における自己統治の価値を有する。もし、採用前におけるY採掘事業に関する政治的言論を理由にB市が採用を拒否することができるとすれば、B市の職員を目指している者に対して萎縮効果が生じる。よって、本件正式採用拒否は表現の自由の制約である。本件はB採掘事業に反対するという特定の見解を理由とする採用拒否であって、特定の見解を思想の自由市場から排除することにつながるから、やむにやまれぬ不可欠な公共的利益のための制約でなければ許されない。本件正式採用拒否についてそのような事情はないから、表現の自由の侵害であって、国賠法上違法である。

 

感想

仮に、いろいろ理屈をつけて、別の理由ならば本件採用拒否は適法となりえたから、違法だけれど損害は生じていないと主張された場合、どう争うべきなのでしょうか?公務員の任用制度に目的なんて無いだろうから、余目町事件最判を援用して「不正な動機に基づく処分であって裁量権を濫用した違法」と主張するより、直に表現の自由を問題にする法律構成の方がよさそう。

*1:通説とは異なるが契約関係とする説として、阿部泰隆『行政法解釈学1』p.316。ほかに、室井力、下井康史など

H25司法試験 憲法

デモ行進不許可処分

A側:デモ行進は、表現の自由として保障される。表現の自由は、自己実現の価値を有し、政治的言論であれば民主的政治過程において自己統治の価値も有する点で極めて重要な権利である。また、道路は伝統的に表現活動と結びついている公共用物であって、その道路における「動く集会」であるデモ行進は、表現の自由のみならず集会の自由としても保障される。集団運動条例3条4号はデモ行進の不許可事由として憲法21条の保障する表現の自由及び集会の自由を制約するものだから、身体、生命、財産に危害が生ずる明らかに差し迫った危険がある場合をいうものと合憲限定解釈すべきである。交通事故の単なる不安は明らかに差し迫った危険とは認められないし、他の事情も要件に該当しないから、B県の不許可処分は違法である。

B県側:「集会の自由」は思想等の交換の場として集会の自由を保障するものであって、特定の見解のもとに集まった人々が特定の見解を発することに主眼があるデモ行進は、「集会の自由」ではなく「表現の自由」として保障される*1。道路の供用目的は、交通の用に供する目的であって、表現活動の場を提供することは本来の供用目的ではないから、デモ行進も本来の供用目的による制約をうけるというべきである。本件では、前回のデモよりも参加者が増えることが予測され、迂回した車両が住宅街で事故を起こす危険が認められる。本件不許可処分は適法である。

ᗷ県側:デモ行進をする自由は、憲法21条により表現の自由として保障される。もっとも、本件規制は、ある見解の表明じたいを禁止するものでも、表現内容に賛同できないことを理由とする規制でもなく、表現の時・所・方法に対する規制であり、言論市場に対する歪曲効果は限定的である。よって、表現内容規制とはその保障の厚さは異なり、表現の時・所・方法は生活の平穏を含む公共の福祉のために必要かつ合理的な制限に服する。したがって、B県集団運動条例3条4号は憲法21条に違反しない。迂回した車両による住宅街での交通事故のおそれ、日中の騒音被害は住民投票条例2号、飲食店の売上げ減少は3号に該当する事情だから、本件不許可処分は適法である。

A側:道路のような自由使用の公物における表現活動が、特に表現の自由として保障されるということは、他の利用を妨げることになっても保障されるということであり、供用目的による制約を受けない。生活の平穏をまもるためであれば、集団運動条例3条2項の附款を付してデモ行進許可処分をするというより制限的でない手段をとらなかったことは、表現の自由の制約として相当性を欠き、比例原則に違反し違法である。迂回した車両が事故を起こす危険が認められるのであれば、日時・場所を指定するという手段もある。また、見解表明の手段は生活平穏権により制約され得るといっても、私的領域への侵入とか、夜間の騒音のように、生活の平穏が重要な侵害を受ける場合であって、本件のような日中の騒音被害や飲食店の売上げ減少は住民投票条例2号及び3号に該当せず、デモ行進不許可処分の理由となり得ない。

 

教室使用不許可

A側:B県立大学は、従前からゼミが開催する講演会で教室を使用することを認めてきたのだから、合理的な理由なく不許可とすることは平等原則に違反し、違法である。本件についていえば、経済学部のゼミが教室使用を許可されたのと区別すべき合理的な理由はないから、平等原則違反の違法である。また、在籍する学生が研究を目的として教室を利用することは、憲法23条の学問の自由として保障され、教室使用を許可するか否かの裁量権を行使するにあたり配慮すべきである。

B県側:大学の教室は、教育及び研究をその供用目的とする施設であって、どのような集会であれば催すことができるかは施設の供用目的による制約をうけるから、政治目的の集会(実社会の政治的社会的活動)であれば開催を不許可とすることは許される。また、学部生は、研究者とは異なり大学の施設の利用について憲法23条による特別の保護を受ける地位にはなく、単に大学の管理運営の客体に過ぎない。

A側:本件開催予定だった集会は、デモ行進不許可に関するC教授の講演を含み、県議会議員による講演も一体として行われる予定だったのだから、教育目的及び研究目的の範囲内の利用である。また、そもそも憲法学は政治も研究の対象とする学問であって、賛成側反対側双方の県議会議員による講演はC教授の講演と一体か否かを論じるまでもなく、教育目的及び研究目的の範囲内である。県議会議員による講演が、政治目的の利用であって不許可とすることができるとしても、研究者であるC教授の講演の部分のみ教室利用を許可するなどの配慮をしなかったことは、学問の自由の制約として相当性を欠き、比例原則に違反し違法である。

 

コメント 供用目的を意識して書きました。許可使用不許可事件は、仲野2007「呉市学校使用許可事件判批」判例時報1956号を思い出しながら書きました。憲法ガールⅡを読んだら、論点漏れがかなりあったので反省。裁量審査のときの不当な動機の事実認定って難しそうと、ふと思った。

学問の自由については、中村「国立大学の法人化と大学の自治」と守矢「「学問の自由」に係る日本の憲法解釈論の性格をめぐって」

*1:渋谷『憲法起案演習 司法試験編』

H28予備試験 憲法

良心の自由

憲法19条が良心の自由として保障するのは、人の人格の核心にかかわる精神活動について公権力から介入されないことであると解すべきである。あるカップルが法律婚を選択するかしないかは当人の生き方の根幹に関わる決定でありその人の人格の核心に深くかかわる。それと同様に、法律婚の選択に肯定的な見解をもつか否かは人の人格の核心にかかわる事柄だといえる。

補助金給付の条件として本件宣誓書の提出を求めることは、婚姻のなかでも法律婚を選択することをことさら肯定するという人格の核心にかかわる倫理的判断の表明を、Xの名義で行うことを、公権力によってXに要求するものであって、このようなA市の行為は良心の自由を侵害する違憲なものである。

あるいは端的に、本件宣誓書の提出を給付条件とするという手段をとったことは、良心の自由という不可譲な権利の放棄を給付条件とすることで良心の自由を放棄することを強制するのと同じ効果があり、違憲だと主張することも考えられる。

これに反論して、補助金給付の条件として本件宣誓書を求めたに過ぎず、Xは宣誓書を提出しないという選択をすることができるのだから、なんらXの自由を侵害するものではないとか、Xは法人だから人格的利益が認められず、良心の自由を享有しないと主張することが考えられる。

消極的表現の自由

仮に、本件宣誓書の提出を求めることが、Xの良心の自由を侵害しないとしても、憲法21条1項が保障する表現の自由を侵害しないかが問題となる。

宣誓書の提出は、例えば行政上の報告義務を課せられた場合と同様に、消極的表現の自由を侵害しないようにも考えられる。しかし、本件宣誓書を提出したことが情報公開されると、宣誓書の文言がXの名義の言論として受けとられ、思想の自由市場を歪めるから、単なる事実の有無の報告義務と同視することはできず、憲法21条1項との関係が問題となる。

市の事業の実施との関係では、宣誓書の提出を補助の条件とすることに代えて、補助の負担として法律婚による成婚数を上げる努力義務を課すことで足りるから、本件宣誓書の提出の必要性は認められない。

よって、Xの表現の自由を侵害し、違憲である。

平等権

もし、Xの主張が認められないとすると、A市において事実婚を望む者は、法律婚を望めば受けられるはずの、NPO法人等を通したA市による結婚援助を受けられないこととなる。

届出により結婚関係にあることの確証が必要な合理的な理由がある場合を除いて*1法律婚事実婚を区別して取扱うことは、憲法14条が保障する平等権を侵害し違憲である。

市としては、1.法律婚の方が安定して子どもを産み育てる環境をつくりやすく、人口増加という成果に結びつきやすいことと、2.成婚数により事業の効果を測定するために、法律婚に対象を限定して事業を実施する必要があることという合理的な理由があることとを主張することが考えられる。しかし、1.は、実際に市の主張する傾向が仮に認められるとしても、結婚した後に子どもをつくるか否かの決定は、憲法14条のもとで重視されるべき価値である個人の尊厳(憲法13条)と不可分な事柄であって、区別的取扱いを正当化する合理的な理由にはできない。2.は、同居の有無など、他の指標を併せて用いることで、効果測定をすることができるから、合理的な理由とは認められない。

本件事業がA市において事実婚を望む者らの平等権を侵害するとして、Xに主張適格は認められるか。A市において事実婚を望み、Xが補助を受けたならば本件事業を利用した者らは、潜在的にしか存在せず、独立の訴訟で自己の権利侵害を主張することは実際上不可能である*2。よって、Xが平等権侵害を主張できる。

 

 

コメント

給付の違憲性を主張する問題ということで、まっさきに平等原則が思い浮かびましたが、事実婚の当事者ではない法人Xに平等権侵害の主張適格があるのかはよく分かりません。出題趣旨には平等の問題とは書いてなかったので、無理筋なのでしょうか。

論点漏れが嫌なので違憲な条件の法理っぽいことも書いておきました。

結社の活動の自由も論じるべきみたいですが、結社の活動の自由についてよく知らない。。。

*1:中川善之助「婚姻の儀式(五)」法協44巻6号(1926)p.1117の準婚理論によれば「届出の如き確証を絶対必要とする如き種類の効果を除いて」内縁にも婚姻に関する規定を準用すべきという。

*2:芦部(初出1962)「憲法訴訟における当事者適格」『憲法訴訟の理論』p.112,3 もし第三者憲法上の権利に訴訟の結果不利益が及ぶことを主張する場合に類する問題として扱うのが正しいとすれば、最大の論点は、おそらく第三者が独立の訴訟で自己の権利侵害を主張することが実際上可能かどうか、ということであろう。

第13章 訴因の変更

重要論点

設例についての問い

1.9月16日午前6時45分ころ覚せい剤を所持したことと9月15日午後10時30分ころ覚せい剤を所持したこととは、両立する関係にあるから、公訴事実の同一性(刑訴法312条1項)の範囲外であって、訴因変更請求不許可決定をすべきである。

2.覚せい剤所持の罪は継続犯であって、途中で所持が中断したという事情はなく、客体とされる覚せい剤も旧訴因と新訴因で共通している。罪数論上一罪の範囲にはいる(刑罰関心の単一性がある)事実には複数の有罪判決が予定されておらず別訴の余地がないところ、刑罰関心の単一性があれば審判対象の変更を許すのが検察官が訴因設定権限を有する主張吟味型手続のあり方として合理的である。旧訴因と新訴因とは一罪の関係にあるから、公訴事実の同一性の範囲にあるものとして、訴因変更を許可すべきである。*1

3.4.訴因制度の趣旨は裁判所にとっての審判対象画定であって、訴因の特定の程度は他の犯罪事実から識別される程度に特定されれば足りるとする見解(識別説)によれば、特定の建造物に対する放火既遂は二度と起りえず、他方放火の方法は罪となるべき事実として必須の事実でないから、審判対象は画定されており、具体的な審理経過に照らし被告人を不意打ちしない限り、訴因変更を要しない。

しかし、識別説は刑訴法256条3項の「できる限り」という文言に反して訴因の特定すべき程度を緩め過ぎるから採用できない。訴因には被告人に防御の範囲を告知し、明確化する機能もあるから防御説を採用する。訴訟経済上訴因変更を要しない場合はあり得るが、訴因事実と認定事実を対比して被告人に防御上の不利益の生じる可能性がある場合、そのような事実認定は不告不理原則違反であって、378条3号の絶対的控訴理由に当たる。なお、防御説に立ちつつ被告人が防御しようと思えばできた場合には訴因変更が不要と解する見解もあるが、事件ごとに判断が異なり得る点や、検察官の主張しない事実が認定される可能性まで検討して防御する過重負担をしいられる点で妥当ではない。

5.Xが実行行為者であることに変わりはないのだから、訴因変更は不要であるようにも思える。しかし、被告人Xが従属的な立場にあれば共犯者の存在が重要な情状事実となり得るといったように、共犯者の有無は一般に被告人の防御にとって重要な事項であるから訴因変更が必要と解すべきである。このように解したとしても、裁判所は求釈明や訴因変更命令(刑訴法312条2項)により心証を開示して訴因変更の機会を与えることができるし、検察官も訴因変更手続は口頭ですることができるから、訴訟経済を害する程度はさほど大きくない。

6.過失が過失態様の違いによっては別の結果回避義務に違反した事実の認定として異なる構成要件をまたがるために訴因変更が必要となるのに対し、故意の種類が訴因と異なる事実認定は、訴因変更を要しないようにも思える。しかし、未必の故意が認定される事件では、一般に故意の有無が争点となり得るから訴因変更せずに未必の故意を認定することは防御上不利益の可能性があり、不告不理原則違反の事実認定というべきである。

 

コメント 中川『刑事訴訟法の基本』を参考にしましたが、中川説をとっても抽象的防御権説、具体的防御権説、識別説とひと通り書かなければいけないので、中川説は採っていません。

*1:鈴木茂嗣2002「公訴事実の同一性」刑事訴訟法の争点第3版参照

Ⅲ-2

(1)譲渡担保について所有権的構成を採ると、消滅時効に伴う譲渡担保契約終了を請求原因として、債権的な登記請求をすることとなる。

担保権的構成を採ると、当初請求である物権的登記請求を、2005年5月12日完成した消滅時効(商法522条)と付従性による譲渡担保権の消滅の主張により維持することとなる。

(2017第二回補足説明レジュメ参照 。担保権的構成を採ったときの、物権的登記請求に対する登記権原保持の抗弁を知らなかった。)

事例1 Sによる2006年4月1日消滅時効の援用を主張する。

事例2 Sが「債務承認書」を差し入れたときには時効が完成しているから、Sがその権利を承認(民法147条3号、改正民法152条1項)したことにはならない。そこで、Gとしては信義則違反を主張することが考えられる。しかし、消滅時効はそもそも債務者に信義に反する主張を認めることを前提としている*1から、Gの信義則違反の主張は認められないと解すべきである。

もっとも、最判S41.4.20民集20巻4号702頁は、禁反言と債務者はもはや時効を援用しないであろうとの相手方の信頼保護を理由に信義則違反の主張を認める。そこで、Bが独自に時効を援用することが考えられる。これに対してもGは信義則違反を主張することが考えられる。その理由としては、BがSの代理人を偽り権利行使を事実上妨げていたことが信義則違反に当たると主張することが考えられる。裁判例にも、被告が無断転貸を隠蔽していたため解除権行使が遅れたとして、信義則違反を認めた事例(東京高判S54.9.26判時946号51頁)や、道路拡張工事中の火薬類取締法規違反に起因する事故により自衛隊員が負傷した事案で、被告国がことさらに違法行為を秘匿していたとは認められないとして信義則違反を否定した事例(東京高判S58.4.27訟月29巻11号2041頁)がある。

(2)Gはβ債権の消滅時効を独自に援用することとなる。そこで、Gがその意思を顧慮されるべき民法145条にいう「当事者」に当たるか(改正民法145条にいう「正当な利益」を有するか)が問題となる。時効を援用するにつき直接の利益を有する者をいうと解する見解もあるが、「直接の利益」がどの範囲を指すかは論者により異なり、曖昧で採用できない。時効を援用することで権利を得、反対に援用しなければ権利を失うおそれがある者であって、他の援用権者とは別個独立の利益を有するものをいう*2と解すべきである。

譲渡担保について所有権的構成を採れば、GはHが担保権を実行すれば所有権を失う恐れがあるから時効の援用権を有するようにも思える。しかし、担保権的構成を採るか、そうでなくても担保という実質に即して考えれば、後順位担保権者であるGの利益は順位上昇の期待という反射的利益に過ぎず、Gは独自に時効を援用できない。

 

 

*1:五十嵐清判例評論95号18頁

*2:佐久間ほか (2010)『リークエ総則』p.328

Ⅰ-10

(1)(a)1993年9月1日に、Xを賃貸人、Yを賃借人として、賃料月額40万円の甲1及び甲2賃貸借契約(民法601条)が成立した。本件賃貸借契約に基づき甲1及び甲2がYに引渡されていた。本件賃貸借契約には毎月末日に翌月分の賃料を支払う旨の前払特約がある。1996年9月30日には、1995年10月分から96年9月分までの賃料の支払期限が到来している。よって、当該賃貸借契約に基づく賃料480万円を請求する。

(b)(ア)民法611条により、賃借人Yは雨漏りにより使用できなくなった(「滅失」に準ずる状態になった)甲2部分に相当する賃料を支払う債務を負わないと主張する。(なお、改正前民法611条の解釈として、賃料減額請求の意思表示があってはじめて賃料が減額されるとする説もあるが、611条は占有移転の主張立証責任を賃貸人に負わせたまま、使用収益に適する状態にあることの主張立証責任を転換する規定と解すべきである。)これに対してXは、12月1日以降は甲2のうち一部屋以外は使用可能になったのだから、その限度で賃料を支払う債務があると一部否認することが考えられる。

(イ)(ウ)1996年3月31日、YのXに対する借地借家法32条1項にもとづく借賃減額請求の意思表示により、4月分以降の家賃は25万円となったから、90万円分は家賃を支払う債務を負わないと主張することが考えられる。地価の急激な下落は明文で定められている考慮すべき事情である。32条1項が明文で定める事情は例示であって借地に関する従前の経過も考慮すべき事情と解される*1から、甲1及び甲2の工事費用を投じたことは考慮すべき事情である。

(2)賃貸借契約が終了するとき、契約の効力により賃借物の返還債務が生じる(改正民法601条)。Xは賃料不払いを理由にYとの家賃40万円の本件賃貸借契約を解除し、甲1・甲2の明渡しを請求することが考えられる。本件賃貸借契約の成立、XがYに甲1及び甲2を明渡したこと、毎月末日に翌月分賃料を支払う賃料前払特約、期限の到来に加えて、賃料を2か月滞納したときにはXは無催告で契約を解除することができる旨の特約があり、10月賃料分と11月賃料分で2か月となるから、契約を解除することができる。また、無催告解除特約によらなくても、1996年3月31日Xは賃料減額には応じられない旨を述べることでYに対して期間を定めず賃料の支払いを催告し、その後9月30日には客観的に相当な期間を経過したから、契約を解除することができる(民法541条)。なお、無催告解除特約の有効性については、借地借家法は賃借人の義務違反である賃料不払を保護する趣旨ではないから、借地借家法30条の適用はない。

これに対してYは、民法611条により使用不能部分相当額の賃料債務がないことにより、賃料債務が25万円以下となったことを主張立証することが考えられる。なお、借地借家法32条1項にもとづく借賃減額請求による賃料減額部分は、Xが賃料減額に応じられない旨の意思表示をしていたことから、この条の2項により賃料債務履行遅滞の責任を免れない。そこで予備的に、賃料不払いが賃貸人に対する背信行為とまで認めるに足りない特段の事情があり「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微」(改正民法541条但書き)であることを主張立証して、解除権の行使を阻止することが考えられる。Yは評価根拠事実として、1996年10月分から1997年3月分の賃料が未払いだったのは、Xが甲4の修繕を怠ったというX側の事情によるものであったこと、4月賃料分以降についても、25万円は期限までに供託していたことを主張する。しかし、甲1の価格下落を加味しても適正賃料が月額30万円であることに照らすと、4月賃料分以降だけでも少なくとも5万円以上の賃料不払が6か月分あり、Xが賃料支払いを催告したこともあわせて考慮すると、賃料不払は軽微な事情とは認められない。

 

コメント

賃料不払が「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微」あるいは「信頼関係が破壊されたと認めるに足りない特段の事情」があるとされるのはどのようなときかの問題*2とか、特約の効力の問題とか、いろいろ分からない。

*1:借地借家法改正要綱試案第二部第三参照

*2:山本和彦『よくわかる民事裁判 平凡吉訴訟日記』にもあるように、「信頼関係」という用語に引きずられて契約当事者間の単なる人間関係を考慮すべきではないだろうけど、じゃあ何を考慮すべきなのか、、、