予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

Ⅰ-1

Yの担当者Aは、会社法14条により当然に本件売買契約の代理権を有する。民法101条1項により、法人Yの故意、重過失その他の主観は原則として担当者Aが判断基準となる。しかし、民法101条1項と2項(改正民法では3項)をあわせた全体の趣旨は、意思表示をすることやその内容を決定した者の主観を判断基準とする点にあると解すべき*1だから、公園の計画もXとAの交渉過程も知りつつ甲4売却をすすめた者がY内部にいれば、その者の主観を判断基準とすべきことをXは主張できる。

 

(1)(a)

Xは甲4を買う意思を欠いていたわけではないが、甲4売買契約の申込みの基礎とした事情である眺望がよいことについての認識(動機)を、2002年3月1日担当者Aに「ここの空き地にマンションでも建てば、せっかくの景観も台無しですね」と述べることで表示しており、担当者により同日された説明をもふまえると担当者が動機を認識し、(承諾し、)眺望が良いことが甲4売買契約の内容となっていたといえる。

したがって民法95条により錯誤無効を主張することができる。

Yが主張できる抗弁として、表意者Xの重過失があるが、そのような事情は認められない。

 

(b)

詐欺の要件は①だます意思、②錯誤によってXに申込みの意思表示をさせる意思、③欺罔行為とXの申込みの因果関係、④欺罔行為の違法性、である。

まず、欺罔行為の違法性があったかを検討する。

担当者Aが3月10日「その空き地は国有地で、公園を作る計画になっている」と述べたことじたいはAが当時知っていた情報に照らして虚偽でなかったのかもしれず、④違法性が認められないか、認められるとしても①Xをだます意思を欠く。

Yが契約締結より前の3月10日に不動産業者に空き地を払い下げる計画があることを知っていたのにXに告げなかったことは、欺罔行為の違法性の要件に該当するか。契約締結をするか否かの意思決定に向けた情報収集は自己責任が原則であって、沈黙したことが欺罔行為の違法性の要件に該当することはないようにも考えられる。しかし、契約締結のための意思決定の基盤確保のために、当事者は契約を締結するか否かの判断に通常影響を及ぼす事項(特に価格に影響を及ぼす事項)について信義則上情報提供義務を負い、これに違反することは違法性の要件に該当すると解すべきである。「公園を作る計画になっている」と述べた先行行為があるからYは眺望というマンション売買契約を締結するか否かに通常影響を及ぼす事項についてXに告知すべきであり、先行行為がある以上は取引に不可欠な駆け引きの限度を超えて信義則上の義務である。Yが不動産業者に空き地を払い下げる計画を知りながらXに告げなかったことは④欺罔行為の違法性の要件に該当する。

眺望のよしあしはマンションの取引において重要な事項であるにもかかわらずYにあえて計画のことを告げなかったことから、Xには情報をかくして①だます意思があったと推認され、加えて相場よりも高い価格で売買契約をしていることから眺望に関する②錯誤によってYに申込みをさせる意思もあったと推認される。

相場より高価にもかかわらず売買契約を締結したこと、担当者Aに「ここの空き地にマンションでも建てば、せっかくの景色も台無しですね」と尋ね、契約締結前の3月10日空き地の登記を調べるなどXが眺望を重視していたことから、③因果関係が推認される。

したがって、Xは96条1項により取消しの意思表示をして甲4売買契約を取り消すことができる。

 

 (c)(ア)

Xは個人であり、不動産取引を「事業として」いないし、居住用にマンションを買ったXは「事業のために契約の当事者となる」者にも該当しないので消費者に当たる(消契法2条1項)。

信用金庫Yは法人(信用金庫法2条)だから、事業者に当たる(消契法2条2項)。

よって、甲4売買契約は消費者契約(消契法2条3項)に当たる。

(イ)

Xは消契法4条1項1号により甲4売買契約を取り消すことができるか。要件は①重要事項(消契法4条4項、設問では1号が問題となる。)について、②Yが不実告知を勧誘の際にしたこと、③不実告知によるXの誤認、④誤認によるXの申込みである。

甲4の前の空き地乙は「契約の目的となるもの」ではない。しかしマンションからの眺望は「契約の目的となるものの質」に当たる。また、マンションからの眺望はマンションの売買契約を締結するか否かに「通常影響を及ぼすべき」ことに当たる。よって、眺望は①重要事項に当たる。契約締結前の3月10日、空き地乙を払い下げる計画があるということに反してAが「公園を作る計画になっている」と述べたことは②勧誘の際の不実告知に当たる。Xは、乙空き地に高層マンションが建っては甲4を買った意味がないと考えていることから③不実告知により誤認していたことが推認される。加えて甲4が割高なこと、Xが眺望を重視する言動をしていたことから④誤認により申込んだことが推認される。よって、Xは消契法4条1項1号により取消しの意思表示をして甲4売買契約を取り消すことができる。

Xは消契法4条2項により甲4売買契約を取り消すことができるか。要件は①重要事項又は関連する事項について、②勧誘の際にYがXの利益となる旨を告げたこと、③その後当該重要事項について不利益となる事実を告げなかったこと、④③の故意、⑤③と④によるXの誤認、⑥誤認によるXの申込みである。

マンションの眺望は①重要事項に当たる。甲4売買契約締結前の3月10日、Aが「ここの空き地にマンションでも建てば、せっかくの景色も台無しですね」と尋ねたのに答えXが「公園を作る計画になっている」と述べたことは②眺望について利益となる旨を勧誘の際に告げたことに当たる。その後、空き地乙を不動産業者に払い下げる計画があり眺望が損なわれるおそれのあることを知りながらYはそれをXに告げなかったことは、③④故意(又は改正消契法によれば重過失)の不利益事実の不告知に当たる。⑤、⑥も消契法4条1項1号不実告知について述べたとおり認められる。よって、Xは消契法4条2項により取消しの意思表示をして甲4売買契約を取り消すことができる。

(2)

設問によれば5月1日にXは甲4の引渡しを受けているから、Yの甲4売買契約にもとづく債務は履行されているようにも思える。民法555条も売買契約の要素を「財産権を相手方に移転する」と定めている。したがって、契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき事項を告げなかった信義則上の情報提供義務違反にとどまるならば(不法行為責任を負うことは格別、)債務不履行には当たらない(最判H23.4.22民集65巻3号1405頁)。しかし、甲4の眺望が一定程度保証されることは、本件の具体的事情の下ではXと担当者Aのやり取りにより契約の内容となっており、すぐに空き地乙に高層マンションが建つと、眺望のよい甲4を買うという本件売買契約の目的を達成することができない。したがって、債務の一部履行不能として民法543条により甲4売買契約を解除することができる。

 

コメント 情報提供義務については、M&A交渉に関する商法学者の研究もありますが、情報提供義務の論証をどう書くべきか悩ましいです。この事例は不実の情報を開示する先行行為があるのでわりと書きやすいですが。。。情報提供義務のところで宅地建物取引業法47条1号ニがつかえないので、そこで答案を書く手がとまってしまいましたが、債権法改正の資料を読みながらあらためて書いてみました。(2)も契約責任説での答案の書き方とか用語の使い方がいまいちわかりません。民法101条適用の論点もあるのでしょうか?

関係する論点がまとまっている文献としては、池田清治「契約締結過程の民事責任論と消契法3条」法教441号

*1:二宮照興1992「法人の善意又は悪意について」日本法学58巻1号145頁p.150