予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

Ⅰ-9

(1)

Yは本件請負工事を予定された最後の工程まで一応終了し、目的物である住宅甲を完成させているが、住宅甲が本件請負契約の内容に適合しないのであれば、XはYに対して債務不履行を理由として追完の請求、損害賠償請求及び解除をすることができる。そこで、設問について検討すると、XとYは何度も切り返せば入庫できる車庫を設置することを合意し契約の内容となっているが、完成した車庫は自動車乙では入庫することができない。Xが自動車乙の大きさをYに伝えていたとすると、住宅甲は本件請負契約の内容に適合しない瑕疵がある。

これに反論して民法636条により債務不履行の責任を負わないと主張することが考えられる。この条にいう「指図」とは、知識の乏しい素人の単なる希望が「指図」に当たるとされて請負人が容易に責任を免れるのは妥当ではないことから、実質的に拘束力をもつものをいうと解される(京都地判H4年12月4日判時1413号78頁参照)。そこで、設問について検討すると、Xは建築についての知識に乏しいことから、私見ではXの述べた希望は「指図」に当たらず、この抗弁は認められない。もっとも、設問によれば、Xの希望は強く、「違反建築でも構わない」と述べたことからもそのことがうかがわれるから、より詳しい具体的な事情によってはYの抗弁が認められ、Xの636条但書きの再抗弁も認められないことも考えられる。

(a)

Xは、民法634条に基づく瑕疵の修補請求[民法559条を介して準用される改正民法562条に基づく追完請求]をすることが考えられる。Yは、抗弁として民法634条但書きに基づき[追完の履行不能]、瑕疵が重要でないことの評価根拠事実(車庫の瑕疵は建替えを要するような安全上の瑕疵でない。自動車乙より小さい軽自動車であれば入庫できる。)と過分の費用を要すること(請負代金1600万円だった住宅の修補に1200万円かかる)を主張立証する。

(b)

民法635条但書き[改正で削除]によれば、解除することができない。

(c)

債務不履行を理由とする損害賠償請求の要件は1.債権の発生原因事実(XとYは住宅甲工事請負契約を締結した) 2.当該債務の不履行(駐車場部分に契約に適合しない瑕疵がある状態で履行期である2004年5月31日が到来した)3.損害事実の発生及び損害事実(判例同旨の見解でいう損害項目に相当する)を金銭的に評価した額4.債務不履行と損害事実の因果関係5.損害事実が通常損害であると主張する場合には、損害事実が当該類型に属する契約の違反から類型的に生ずる自然の結果であること。特別損害であると主張する場合には、契約締結の際に両当事者(416条2項にいう「当事者」は、文理どおり両当事者をいうと解すべきである。)に知られていた特別な事情から生ずる自然の結果(言い換えれば予見可能性がある)であること。である。

なお、5.の通常損害の要件については不要とする見解があるので検討する。相当因果関係説によれば、5.の通常損害の要件は不要で、4.の要件において因果関係が相当であると判断されれば損害賠償請求が認められるという。しかし、因果関係という事実的にとらえるべきものに「相当性」という法的価値判断はなじまないから採用できない。

3.損害事実として、駐車場に瑕疵のない建物を手に入れるには建替える以外ないことを主張して建替え費用を請求できるか。契約の目的を達成できなくてもなんらかの用途があれば収去しないことが社会経済的に好ましいとして、民法635条但書きの趣旨による抗弁により、建て替えるほかない場合以外は建替え費用を損害額として損害賠償を請求することができないと解される。[改正により民法635条は削除される。]これを設問についてみると、周辺の駐車場を年額18万円で借りることができ、これにより契約の重要な目的を達成することができるから、民法635条が削除される前後を問わず、建替え費用を請求することはできない。

3.損害事実として考えられるのは、駐車場に瑕疵があることによる住宅甲の価値の低下という財産的損害と、周辺の駐車場に自動車乙をとめる出費をしいられる財産的損害である。

次に、この二つの損害事実が5.通常損害又は契約締結時両当事者が予見できた特別損害に当たるかを検討する。瑕疵による建物の価値、本件でいえば住宅甲の価値の低下による財産的損害は、建物建築請負工事請負契約において類型的に生じる損害だから通常損害である。周辺の駐車場代は通常損害とは認められないが、XYの両当事者ともに自動車乙が駐車できなければ近所の駐車場が必要になることは予見できたとだから、契約締結時に予見可能性のある特別損害である。

よってXは、損害賠償を請求でき、駐車場が軽自動車であれば駐車できるため周辺の駐車場代にかかる費用ほど住宅甲の価値が低下していなかったとしても、周辺の駐車場代相当額を損害賠償請求することができる。

(2)(a)

甲の1階部分がおおむねできた段階で駐車場に瑕疵があることが分かり、Xが修補を請求した場合、瑕疵が重要でなく修補に過分の費用を要し、修補が履行不能であれば、Yの履行不能の抗弁により修補を請求することができない。

(b)

民法641条により注文者はいつでも理由なく契約を解除することができ、不当利得返還請求により支払済みの代金の返還を請求することができる。Yは抗弁として、契約の目的に照らして重要な瑕疵でないことを主張立証して解除権の発生を障害する。設問について検討すると、瑕疵があるのは駐車場部分のみなので、この抗弁は認められる。そうでなくても、注文者が受ける利益の割合に応じた報酬分の額を主張立証して返還を拒むことができる[改正民法634条2号]。また、技術的にみて工事を中止できないときは、その工程を終えるまで信義則により解除権の行使を阻止することができる。

 

コメント (1)(c)の通常損害と特別損害のところは 講義ノート 松岡久和債権総論レジュメ第7回を参考にしました。Materials欄の最判H14.9.24判時1801号77頁と東京地判H3.6.14は削除される民法635条により代償請求が制限されるか否かの裁判例でした。別の利用方法を見つけることは容易でない場合もあり注文者にとって過大な負担となることを理由に削除され「この問題を個別の契約に委ねる」ようです。