予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

H29司法試験 憲法

設問1

リプロダクティブ・ライツ

妊娠をするか否かは個人の生き方の根幹にかかわる決定であり、幸福追求権として憲法13条により保障された人権である。この法律(以下、「法」という。)の15条8号は、幸福追求権を侵害し違憲無効だから、Bに対する収容及び強制出国命令書の発布は国賠法上違法である。

居住の自由

憲法22条1項は、居住の自由を保障し、日本国籍を有しない者を含む「何人も」権利を保障されることを定めている。居住の自由は、単なる経済的自由権ではなく、他人との交際関係を左右するという意味で人格形成にとって有益な側面を有するから、立法目的が重要であって、手段が必要かつ合理的なときに限り、制約が許される。Bは法4条4項により滞在期間3年で設問上更新をうけていない短期滞在者だが、滞在期間中は不当に滞在資格を奪われない権利を憲法22条1項により保障されていると解すべきである。

滞在期間を3年以上に延ばさず定住化を回避することは重要な目的ではあるが、母子の健康に配慮して3年の滞在期間を超えざるをえなくなったとしても、4年目には出国が可能となるのであって、妊娠を禁止行為とすることは必要かつ合理的な手段とはいえない。この法律の15条8号は、居住の自由を侵害し違憲無効だから、Bに対する収容及び強制出国命令書の発布は国賠法上違法である。

令状主義

憲法33条は、強制的な隔離という身体の自由の重大な制約を、裁判官による中立的・独立的な機関の事前審査に服させる規定と解される。この法律には裁判官の収容前の関与がなんら定められていないから、本件収容は憲法33条に違反し国賠法上違法である。

 

設問2

リプロダクティブ・ライツ

ある国の領域内に滞在することが権利として認められるのは、その国の国籍を有する国民だけであって、その国の国籍を有しない外国人が滞在する資格を与えられるか否かは、専ら国家の主権的判断、究極的には滞在権を有する国民の民主的な判断に属する。と国が反論することが考えられる。

しかし、私見では、人権は人間の尊厳に由来する前国家的な権利であって、出入国管理制度によっても人権侵害は許されない。あるいは、滞在資格の期間更新拒否の理由として妊娠を考慮することは消極的斟酌として許容されるが、滞在期間中に出国強制することは、その際に考慮された事情によっては憲法上の権利の制約に当たる。法15条8号に該当することを理由とする本件収容及び本件強制出国命令書の発布は、憲法13条が保障する幸福追求権のなかでも出産に関わる自己決定権の制約に当たる。自己決定権は、当人の人格的生存にかかわるから、やむにやまれぬ不可欠な公共の利益が目的であって、目的達成の手段にともなう権利制約が必要最小限度のときに限り制約することが許される。

国の主張として、「日本人男性との子が生まれて子が日本国籍を取得する可能性があり、そうすると結局家族全員が定住化して社会的・政治的な軋轢が生じるおそれがあり、ひいては「我が国の文化や秩序との調和を図」るという法1条の目的が達成できなくなるおそれがあり、やむにやまれぬ不可欠の公共的利益が認められる。家族が形成された後で分離することは、憲法13条が保障する家族の維持に関わる自己決定権を侵害することとなるし、未成熟子を含む婚姻生活における協力義務は憲法24条1項に由来するが、家族の分離はその円滑な履行の妨げとなるおそれがあるから、妊娠を禁止することは必要最小限度の手段である」と主張することが考えられる。しかし、公費で親子に適切に日本語教育を受けさせたり、公的な情報提供では日本語母語話者以外にも理解しやすい語彙を用いるなど、より制限的でない手段によって政治的・社会的な軋轢を回避すべきであって、必要最小限度の手段とまでは認められない。

よって、法15条8号は自己決定権を侵害し違憲無効だから、Bに対する収容及び強制出国命令書の発布は国賠法上違法である。

居住の自由

仮に、国の主張どおり出入国管理制度の枠内でしか自己決定権その他の憲法上の権利が保障されないとしても、居住の自由も保障されないとすると、憲法22条1項が「何人も」と定めた趣旨が没却されることとなるから、出入国管理制度に関する立法裁量は居住の自由を侵害しない限りで尊重されるものと解すべきである。国としては、マクリーン事件最判を援用して、憲法22条1項は国内における居住・移転の自由を保障したに過ぎないと主張することが考えられるが不当である。居住の自由の制約の違憲審査基準は、出産に関わる自己決定権の違憲審査基準よりも緩やかであって、定住化回避は重要な目的といえるし、妊娠を禁止して領域内での家族の形成をふせぐことは必要かつ合理的な手段であるから、法15条8号は憲法22条1項に違反しない。このような解釈によれば、Bに対する強制出国命令書発布に国賠法上の違法性は認められない。

令状主義

憲法33条は、刑事手続に適用される規定であって、本件収容は憲法33条に違反しないと反論することが考えられる。

確かに、憲法33条は直接には適用されないと解すべきだが、法18条の収容は、強制的な隔離という身体の自由に重大な制約をする行為であって、憲法33条が準用されると解すべきである。国としては、手続の公平を確保する手段として、審査官と警備官を分離して置き、手続の中立を確保しているし、審査官を裁判官の代わりにすることは認定の専門性を高めるためであって正当であり、違法はないと主張することが考えられるが、法務大臣の指揮監督下にある審査官には憲法33条の趣旨からみて十分な中立性があるとはいえない。よって、この法律の収容手続は憲法33条の趣旨に反し、本件収容は国賠法上違法である。

 

コメント

論点漏れ(違反行為の嫌疑に加えて身体拘束の必要性が要件となるか)があった。大橋毅、児玉晃一2009「「全件収容主義」は誤りである」移民政策研究、蟻川恒正「2017年司法試験論文式試験公法系第一問を読む」法律時報89巻9号89頁を参照

長期滞在者に人格形成的利益を理由として滞在権を認めるために、居住の自由の判例変更をすべきだと思っているので、短期滞在者の事案ですが、居住の自由も主張しました。あとは穏当に書いたつもり。「何人も」に言及したのは、近藤敦説に寄せるためです。

条文こそ引用されてないですが、問題文中で審査官を「置く」、警備官を「置く」(どちらも「命ずる」ではない)とされているのは、職能分離を答案で書かせるための誘導かなと思います。