予備試験とか

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1.不真正不作為犯、不作為犯と共犯

Aの罪責

Vに死の結果が生じているから、Aに殺人罪が成立するかが問題となる。

Vが転倒してから午後6時30分までに119番通報をしなかった不作為が殺人罪の実行行為に当たるか*1殺人罪の実行行為というには、刑法上の作為義務に違反したことと作為が容易だったことが必要である。119番通報は容易にできるから、刑法上の作為義務がどのような場合に認められるか、本件の場合に認められるかが問題となる。作為義務が認められるには、AがVの死亡までの因果経過を支配していることが必要である。加えて、殺人罪の作為と同価値性がある不作為でなければならないから、Aが保護を引受けたと認められる必要があると解される。

Vは許可なく立ち入ることが禁じられた特別室にいて、BはVのことを知っているものの、Aの指導的な立場に照らすと無断で救命措置を採る可能性は低い。よって、Vには生命に対する危険の排他的支配が認められる。また、AはVを道場に呼び寄せる先行行為により危険を生じさせており、保護の引受けが認められる。

なお、死の結果発生に対する強い積極的態度によりはじめて、作為による殺人と同視し得る強度の違法性が認められるとする見解*2がある。不真正不作為犯が成立するか否かは、不作為であっても「殺した」といえるかの問題であって、特別の主観的要素を要求すべき根拠はない。また、この見解によっても、死の結果を確実なものとしてAが実行行為のときに認識していた本件では、やはり殺人の作為と同視し得る。

AはVが死んでも構わないと思い実行行為に及んだから、殺人の故意が認められる。

Aには殺人罪が成立する。

 

Bの罪責

殺人罪の実行行為又は保護責任者遺棄致死罪の「保護する責任のある者」の身分が認められるには、Bが119番通報をする刑法上の義務を負っていた必要がある。しかし、Vの保護を引受けたと評価できる先行行為をBは行っていないから、刑法上の義務を負っていない。

Aによる殺人罪の幇助犯は成立するか。Bは、脳卒中による死の危険がVに生じたことをCに対して嘘で隠す作為*3によって、Vに生じた死の危険のAによる排他的支配を確実にし、結果発生を容易にしたと認められる。また、CがVの病状を知れば119番通報するかもしれないと思いつつ、それでも嘘をつく作為に及んでいるから、故意が認められる。よって、殺人罪の幇助犯が成立する。

*1:遅くともVが転倒した時点で救命措置を採るべきことを認識したと認められるから、この時点で実行の着手が認められるべき。転倒前からAに殺人の故意があったかについては合理的な疑いがある

*2:藤木、改正刑法草案12条も参照

*3:もし、不作為による幇助犯の問題であれば、作為があれば犯罪実現が困難になったという程度の因果性があれば足りるとする説と正犯が負う刑法上の作為義務と同程度に容易な義務でなければならないとする説とが対立する。本庄武「不作為による共犯」刑事弁護(74)p165によれば確立した判例が無い。