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13.治療行為と傷害罪、文書偽造罪と名義人の承諾

傷害罪

 

文書偽造罪(刑法159条1項)

診断書は「事実の証明に関する文書」に当たるか。広く社会生活に交渉を有する文書をいうとする説と、文書偽造罪の保護法益はあくまで文書に対する公共の信用だから、社会生活における重要な事実について証拠となる文書に限るとする説とがある。診断書にされる事実の記載は保険金の請求に用いられるなど社会生活における重要な事実について証拠となる文書と認められるから、いずれの説によっても「事実証明に関する文書」に当たる。

「偽造」とは、名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいい、その前提として、文書は、名義人が判別できるものでなければならない。本件診断書の記載内容からは、医師Bが作成者であるように看取できるから、医師Bが名義人であり、名義人が判別可能であることの要件を満たす。

本件診断書を作成した行為は「偽造」に当たるか。誰が作成者かが問題となる。作成者の意義について、法的効果が帰属する者をいうとする説は、民事上の問題と有形偽造の処罰という刑法上のの問題とを混同するものであり、また、事実証明について法的帰属は問題となりえないから採用できない*1。作成者とは、文書に表示された意思観念が精神的に由来する者をいう(観念説、事実的意思説)*2。BはAによる診断書の作成を承諾しているから、Bの意思の範囲内であってBが作成者であり、作成者と名義人とが同一だから、「偽造」に当たらない*3

これに対して、文書の性質により名義人以外の者が作成することが許されない文書については、名義人の承諾は無意味であって作成者は自書した者であり、偽造に当たる場合があるとするのが判例である。文書の性質の意味が曖昧*4で、処罰範囲の明確性の観点から判例には問題がある。仮に判例の結論が妥当だとして検討しても、Aは2年間にわたりBの名前で診療に従事し、Bは医者としてのAの通称名として通用していたから、人格の同一性に偽りはなく「偽造」に当たらない。

なお、「行使の目的」とは事情を知らない利害関係者に文書の記載内容を認識させる目的をいい、行使の目的によって、文書が公共の信用を危殆化させるという違法性の実質を備えると解すべきである*5。通常の診断書作成であれば、患者に診断内容を伝えることが第一の目的であり「行使の目的」が認められない*6。しかし、本件では保険金詐欺を目的として診断書を作成したという事情があり、保険会社に診断書の記載内容を認識させる目的が認められ、「行使の目的」に当たる。よって、「偽造」の要件を満たせば文書偽造罪が成立した。

本件は「偽造」の要件を満たさないから、Aに文書偽造罪は成立しない。*7

 

詐欺罪

 

*1:山下幸夫「一事不再理私文書偽造」『ロースクール生のための刑事法総合演習』

*2:成瀬幸典「文書偽造の罪」『新・コンメンタール刑法』

*3:山下幸夫前掲

*4:松宮

*5:行使の相手方を利害関係者に限定する見解として井田など

*6:解説によれば、診断書が勤務先への提出に多く用いられているという社会的機能を知っていたことから「行使の目的」が認められてしまう

*7:処罰根拠を文書の記載内容が真実でも証拠又は証明手段として利用できなくなる危険とみる見解(証拠犯罪説)によって論証した場合に、どういう結論になるのかがよく分からなかった。属性を重視するとしても、属性は名義人を特定する参考に過ぎないし、資格に対する信用に重きを置くと医師法18条の名称使用の罪とは特別関係になりそう。