予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

R1 予備試験行政法 設問2

A県屋外広告物条例は、屋外広告物法による委任条例であって、一般に再委任は細目的な事項についてのみ許される。再委任を行うとしても、条例上、不確定概念で要件を定めた場合に、規則によって当該不確定概念の解釈を明確にする程度の細目的な事項の委任にとどめるべきである。条例6条1項及び9条は、規則を定める際の目的も基準も何ら示しておらず、解釈によっても屋外広告物法及び屋外広告物条例の目的規定並びに条例2条に合致すべきという黙示の目的以外読み取れないから、屋外広告物法の委任に反し違法無効である。

 

A県は反論として、「すべての条例は、法律の委任ではなく、憲法94条により授権された自主立法権に基づき制定される規範であって、法律により特別に制約を受けることがあるに過ぎない。条例の委任をうけた規則の適法性は、法律の委任をうけた政省令その他の命令の適法性と同じ基準により判断すべきである。」「再委任に当たるとしても、その適法性はあくまで屋外広告物法の委任規定の趣旨によって判断すべきであり、再委任の限界が細目的な事項にのみ限定される理由はない。」と主張することが考えられる。

そこで、規則への委任*1屋外広告物法の趣旨に反しないかが問題となる。屋外広告物法や屋外広告物条例の規制は、憲法21条が保障する表現の自由を制約するがそれにも関わらず厳格審査基準によって違憲とされないのは、表現の内容に賛同できないことを理由とする規制だけでなく、表現行為による弊害を理由とする規制までほとんど機械的に杓子定規に違憲無効とすれば、議会の権限が狭められて*2、かえって、表現の自由がもつ自己統治の価値を薄めるからである。条例から規則への委任は自己統治の価値を薄める。法律が明文では規則への委任を認めていない以上、条例6条1項及び9条は、規制目的と表現の自由の調和を図る屋外広告物法の趣旨に反し違法無効である。

 

仮に条例は適法だとしても、屋外広告物規則により表現の自由を制約するには、議会における討議を経て民主的正統性がより高い条例において、委任の趣旨が明確に読み取れることを要する。場所的な規制は条例6条1項1号から5号に定められているから、条例9条の委任は色彩や大きさ、高さなどの場所以外の要件であって、規則別表第5第二号ハは違法無効である。

これに対して、一定の場所における広告物の表示をすべて禁止するのではなく、建物等から独立させるという方法による広告物の表示を規制するに過ぎないから「基準」という用語による委任の範囲内だとする反論が考えられる。しかし、色彩や大きさ、高さの規制と比べて一定の種類の屋外広告物を禁止する規制は表現の自由を制約する程度が強いから、明示の委任によらなければ許されない。

仮に、本件規制が「基準」という文言じたいの可能な意味の範囲内だとしても、鉄道からの距離に着目しながら、鉄道から展望できるか否かを区別しない点で、景観を保護するために必要な限度で規則に基準の定めを委任した条例6条1項及び9条の委任の範囲を超え、規則別表第5第二号ハは違法無効である。

 

場所に着目した基準を明示の委任によらず規則で定める例

奈良市規則:許可の基準(条例11条の委任)について、広告塔及び広告板等は、自家広告物等を除き、「鉄道又は道路敷及びこれらから展望できる範囲で当該鉄道又は道路敷から100メートル以上の場所に設置し、かつ、広告物相互の間隔は、100メートル以上であること」と定める(別表2第2号広告塔及び広告板又はこれらを掲出する物件1号)。

埼玉県規則:許可の基準(条例6条2項の委任)及び自家広告物等であるがその表示又は掲出を許可制によるべきとされたものの許可基準(条例10条1項の委任)として、新幹線鉄道の方を向いた壁面利用広告の表示を禁止する(別表1第1号)

金沢市規則:禁止地域の規制の適用除外の基準(条例12条2項1号の委任)について、同じ禁止地域でも種別を設け、自家広告物につき異なる基準によって規制する(別表3)。屋外広告物等の規格(条例15条の委任)について、同じ禁止地域でも種別を設け、異なる規格によらなければならない(別表4第3号)。

神奈川県規則:許可地域の基準(7条の委任)について、規則で自然系・住居系・工業系・沿道系・商業系という独自の概念を設けて許可地域を細分化し、地域によって異なる高さや大きさの基準を設ける(規則別表2)。

 

コメント

奈良市規則のような規定ぶりによる距離制限は違法という立場です。

ふつうに権利の重要性や規制の強度を理由に、「授権の趣旨が明確に読み取れることを要する(ケンコーコム事件最判)」と論じるべきだったのかもしれませんが、それは職業の自由や、立法例も参照しても独禁法の課徴金納付命令の要件規定のような財産権の事例で、表現の自由までなんの理屈もなく射程を拡げるのはやや躊躇がありました。(もっとも、参政権について解職請求事件最大判の藤田補足意見、宮川櫻井補足意見がありますが。)規制の強度が足りないと反論されそうだし、Active Libertyを読んでいる途中なので、かぶれているので。

都道府県は憲法上の地方公共団体か否かに議論があるうえ、憲法94条にいう「条例」は長の定める規則を含むとする見解が多数説なので、憲法94条を援用しない方がよかったかも。

再委任のところは、ワークブック法制執務説と塩野説です。

*1:北村「分任条例の法理論」自治研究89巻7号27頁は、条例に任せられた趣旨を踏まえ、自治体にとっての重要事項は条例で定めるべきとする

*2:Stephen Breyer(2005) Active Liberty: Interpreting Our Democratic Constitution