予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

H17司法試験 憲法 第1問

1.本件規制は憲法22条1項が保障する職業選択の自由を制約する。

免許の要件が、例えば研修の受講のような本人の意思や努力次第で充足し得る要件だった場合、免許制を採ることは憲法22条1項に違反しないか。また、酩酊者に酒類をさらに提供することを免許の取消事由として定めることは憲法22条1項に違反しないか。

職業は、自己の生計を維持する手段であるから、許可制を採用するに当たっては、既存の営業者が直ちに廃業に追い込まれることのないよう配慮すべきである。酒類の摂取による迷惑行為の抽象的危険や飲酒の健康被害のような立法事実が認められ、その防止と免許制を採るという手段には合理的関連性があるから憲法22条1項に違反しないが、経過措置規定を設けるなどの配慮が必要である。

酩酊者にさらに酒類を提供することを規制することは、立法事実は認められるが、仮に「取り消さなければならない」という規定ぶりならば、軽微な違反事例でも常に免許が撤回され、違反者は生計の途を奪われることとなるから、憲法22条1項に違反し無効である。「できる」規定や営業停止命令を設けるなど、より制限的でない手段によるべきである。

免許の要件が場所や店舗数の制限だった場合、本人の意思や能力では充足できない客観的な要件であるといえる。職業は各人が自己の個性を全うすべき場として、個人の人格的価値と不可分であって、客観的な要件による許可制はこのような人格的価値の実現を阻害するから、より厳格な基準により審査すべきである。酒類の摂取によって迷惑行為の抽象的な危険が生じることや、重大な健康障害の原因となることは明らかであって、規制の目的は重要である。また、酩酊者がさらに酒類を摂取することを防止することは、酒類の致酩性・依存性も相まって飲酒をする者の意思では困難だから、規制の客体を酒類提供者とすることや、入手経路を限定することは必要かつ合理的な手段である。よって、憲法22条1項に違反しない。

 

2.飲酒をする自由は憲法13条により保障されるかが、まず問題となる。酒類は致酩性を有し、飲酒は迷惑行為や、極端な場合には暴行その他の犯罪行為を誘発するから幸福追求権として保護するに値しない(賭博罪に関する刑集4巻11号2380頁参照)という見解が考えられる。しかし、飲酒は伝統的に容認されてきた行為であって、文化を享有することを妨げられない自由は、個人の人格的生存に不可欠な行為をなす自由の一つとして憲法13条により保障されるというべきである。よって、一般的な行為の自由よりもより厳格に審査すべきであって、目的が重要で、その手段が必要かつ合理的でなければ許されない。

本件規制の目的は複数あるが、迷惑行為の防止は、迷惑行為の中には暴行や器物損壊のような刑法上の犯罪に当たる行為も想定されることから重要といえる。

また、本人の健康の保護も重要な目的といえるが、これに対しては、憲法13条は私事に関する自己決定権を保障したものであって、本人の意思に反して健康を保護することは憲法上は重要な目的とは認められないとか、「公共の福祉」に含まれないとの反論が考えられる。しかし、本人の健康は公的医療保険の財政にも影響を与えるなど、全くの私事とはいえないから、やはり重要な目的といえる。

本件規制の手段は、禁止場所を道路、公園、駅その他の公共の場所に限定している点で、迷惑行為の防止のために必要かつ合理的であり、私的な空間における行為の自由にも配慮している。また、罰則は拘留又は科料であって、犯罪の中でも最も緩やかである。

しかし、迷惑行為の防止という目的からは、ハロウィンやオリンピックのようなイベント開催時の、特に人が集まりやすい場所に禁止の日時及び場所を限定すれば足り、あとは警察官による警職法上の権限行使などのより制限的でない手段によるべきであり、健康保護という目的からは、飲酒が禁止される場所が限定され過ぎていて、アルコール度数を考慮して酒税の税率を引き上げるなどの手段と比べて実効性に欠けるし、そもそも行為者本人の利益(この法律では健康)を保護法益として刑罰を科すことは正当化できない。よって、憲法13条に違反する。

違反者に拘留又は科料を科すことは、軽犯罪法や酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律などとの罪刑均衡の要請に反し、憲法14条に違反しないかが問題となる。とくに、刑罰を科すことは身体の自由や名誉といった個人の尊厳にかかわる権利の制約となるから、正当な理由の有無の審査はその分厳格であって、区別して取扱うべき者を区別しなかった場合にも違憲となり得る(罪刑均衡に反して刑罰を科すことが平等権を侵害することについて、尊属殺重罰規定違憲判決参照)。確かに、迷惑行為として、軽犯罪法迷惑防止条例に違反する行為やそれに至らない迷惑行為のみが想定されていれば、迷惑行為の抽象的危険を惹起するに過ぎない飲酒行為に刑罰を科すことは、等しくない者は等しくないものとして取り扱うことを要求する憲法14者に違反し、過料などの手段を検討すべきこととなる。しかし、飲酒行為に起因して刑法上の犯罪が行われる場合もあることはよく知られているから、憲法14条に違反しない。

 

参考

WHO「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」http://alhonet.jp/who.html

渋谷駅周辺地域の安全で安心な環境の確保に関する条例

鎌倉市海水浴場のマナーの向上に関する条例