予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

UNIT 16 一部請求

重要論点

Q1

1)将来の介護費用は、現実の余命が分からなかったり、政策やマクロの賃金変動の波及などの要因で、Xが立証できた将来の介護費用から乖離する可能性がある。そこで、Yが残債務又は一定額以上の債務の不存在の確認を求める反訴を提起しないのであれば、将来の介護費用の部分のみを除いた一部請求をして、定期金賠償を求めるか一時金賠償を求めるかの判断を先送りにすることには合理性がある。

2)処分権主義の内容の一部を定める民事訴訟法246条により、裁判所は、申立てと比べて量的に超過する内容はもちろん、質的に異なる内容を判決することもできない。

本件では、Xが主張しない器具購入費という損害費目で470万円の損害を認めたことが、Xの申立てと質的に異なる内容の判決に当たらないかが問題となる。

申立ての範囲の特定に必要な、不法行為に基づく損害賠償請求の請求原因となる事実は、加害行為、故意又は過失、法益侵害、相当因果関係、不法行為が無かった場合の被害者の利益状態と現実の被害者の利益状態の差額(民法709条にいう「損害」)である。

よって、原告であるXが主張する差額1億3000万円の量的な範囲内であり、同一の交通事故という加害行為による同一のXの身体という法益侵害により生じた損害について、理由中でどのように損害費目を合算して判決しても、民事訴訟法246条に反しない。

Q2

1)

2) 裁判所が職権で過失相殺をすることの当否(略)

裁判所は、1〜4と5で按分して過失相殺をしているが、1〜5の損害額全部を審理判断したうえで、同一の債権の訴求されていない部分である5の部分から(外側から)先に過失相殺すべきではないかが問題となる。

過失相殺を外側から行うべきとする見解は、一部請求をする当事者の通常の意思に合致することを理由とするところ、本件のように、一部の損害費目の立証困難などを理由とした一部請求がされる場合には、当事者は残部の債権の額を審理判断されることを望んでいない*1。よって、裁判所の判決は妥当である。

Q3

1)実体法上は債権を分割して行使することができる以上、民事訴訟法246条により申立ての範囲を限定して訴訟物を設定することができる。114条1項により既判力は主文に包含するものに限り生じ、判決主文の判断は訴訟物についての判断だから、既判力も申立ての範囲に限定される。一部請求が少なくとも明示的になされた場合には残部には既判力は生じないといえそうである。

そこで、請求額を訴訟物である債権の全部として訴求したか、一部として訴求したかはどのように区別されるべきかが問題となる。

明示の一部請求がされている場合には、処分権主義によって、紛争の蒸し返しを防止する既判力制度の趣旨は後退せざるを得ないが、黙示の場合にまで既判力制度の趣旨を後退させる理由はない。

本件前訴で一部請求であることが明示されなかったとすれば、債権の全部に既判力が生じているから、裁判所は請求を棄却すべきである。

これに対して、同じ損害費目について、前訴請求分を超える損害が発生したとの主張に基づき、後訴が提起された場合はどうか。

訴状等に示された原告の意思のみを考慮すれば、明示がなかったとして既判力により後訴の請求は棄却すべきように思える*2。しかし、例えば前訴請求時に知り得なかった後発後遺症による損害のように、原告が前訴において請求することが期待できない場合には、被告からみても、反訴を提起しようにも発生不確実な将来の権利の確認として確認の利益が認められない*3から、後訴請求は認められる余地がある。

2)

3)前訴の一部請求が棄却された場合に後訴の残部請求は棄却されるべきか。

仮に、前訴請求が損害費目を限定しない一部請求であれば、前訴請求を選択的併合と法律構成すべきであるという見解がある。一部請求に理由がなければ次の一部請求額の部分について順次判決を求めたのだから、請求が棄却された場合には債権の全部について既判力が生じており、後訴請求は棄却すべきである*4。これに対して、本件では、選択的併合という法律構成を採ることができず、判決理由中の判断に既判力は生じないから、残部に既判力は生じない。

しかし、請求が棄却された前訴請求と後訴請求とは、債権の発生原因として主張する事実は同じであって、実質的には紛争の蒸し返しであり、この点は前訴請求における損害費目の限定の有無によって異ならない。

よって、本件のような場合も射程に収めるために、請求棄却された前訴請求と後訴請求とが債権の発生原因として主張する事実が同じであれば、信義則違反として訴えを却下すべきである。

 

コメント 

 

*1:過失相殺を考慮した一部請求であって、原告が外側からの相殺を望むのであれば、外側からの相殺の利益を受ける原告が、その旨を明示する信義則上の義務を負う。三木2008「一部請求論の展開」

*2:佐瀬2009p.154

*3:勅使河原2012「一部請求におけるいわゆる「明示説」の判例理論」p.72

*4:松本2001が紹介するZitelmann説