予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

刑事法の気になった文献メモ

今村暢好(2020)「許認可行為と行政刑法」『行政刑法論序説』

古田佑紀(1986)「条例における罰則の適用範囲」判タ37(38) なお、高松高判S61.12.2

村岡啓一(2001)「証拠構造の解析方法 チャートメソッドのすすめ」刑事弁護 (27)

川出敏裕(2002)「挙証責任と推定」『刑事訴訟法の争点』第3版

 

UNIT 16 一部請求

重要論点

Q1

1)将来の介護費用は、現実の余命が分からなかったり、政策やマクロの賃金変動の波及などの要因で、Xが立証できた将来の介護費用から乖離する可能性がある。そこで、Yが残債務又は一定額以上の債務の不存在の確認を求める反訴を提起しないのであれば、将来の介護費用の部分のみを除いた一部請求をして、定期金賠償を求めるか一時金賠償を求めるかの判断を先送りにすることには合理性がある。

2)処分権主義の内容の一部を定める民事訴訟法246条により、裁判所は、申立てと比べて量的に超過する内容はもちろん、質的に異なる内容を判決することもできない。

本件では、Xが主張しない器具購入費という損害費目で470万円の損害を認めたことが、Xの申立てと質的に異なる内容の判決に当たらないかが問題となる。

申立ての範囲の特定に必要な、不法行為に基づく損害賠償請求の請求原因となる事実は、加害行為、故意又は過失、法益侵害、相当因果関係、不法行為が無かった場合の被害者の利益状態と現実の被害者の利益状態の差額(民法709条にいう「損害」)である。

よって、原告であるXが主張する差額1億3000万円の量的な範囲内であり、同一の交通事故という加害行為による同一のXの身体という法益侵害により生じた損害について、理由中でどのように損害費目を合算して判決しても、民事訴訟法246条に反しない。

Q2

1)

2) 裁判所が職権で過失相殺をすることの当否(略)

裁判所は、1〜4と5で按分して過失相殺をしているが、1〜5の損害額全部を審理判断したうえで、同一の債権の訴求されていない部分である5の部分から(外側から)先に過失相殺すべきではないかが問題となる。

過失相殺を外側から行うべきとする見解は、一部請求をする当事者の通常の意思に合致することを理由とするところ、本件のように、一部の損害費目の立証困難などを理由とした一部請求がされる場合には、当事者は残部の債権の額を審理判断されることを望んでいない*1。よって、裁判所の判決は妥当である。

Q3

1)実体法上は債権を分割して行使することができる以上、民事訴訟法246条により申立ての範囲を限定して訴訟物を設定することができる。114条1項により既判力は主文に包含するものに限り生じ、判決主文の判断は訴訟物についての判断だから、既判力も申立ての範囲に限定される。一部請求が少なくとも明示的になされた場合には残部には既判力は生じないといえそうである。

そこで、請求額を訴訟物である債権の全部として訴求したか、一部として訴求したかはどのように区別されるべきかが問題となる。

明示の一部請求がされている場合には、処分権主義によって、紛争の蒸し返しを防止する既判力制度の趣旨は後退せざるを得ないが、黙示の場合にまで既判力制度の趣旨を後退させる理由はない。

本件前訴で一部請求であることが明示されなかったとすれば、債権の全部に既判力が生じているから、裁判所は請求を棄却すべきである。

これに対して、同じ損害費目について、前訴請求分を超える損害が発生したとの主張に基づき、後訴が提起された場合はどうか。

訴状等に示された原告の意思のみを考慮すれば、明示がなかったとして既判力により後訴の請求は棄却すべきように思える*2。しかし、例えば前訴請求時に知り得なかった後発後遺症による損害のように、原告が前訴において請求することが期待できない場合には、被告からみても、反訴を提起しようにも発生不確実な将来の権利の確認として確認の利益が認められない*3から、後訴請求は認められる余地がある。

2)

3)前訴の一部請求が棄却された場合に後訴の残部請求は棄却されるべきか。

仮に、前訴請求が損害費目を限定しない一部請求であれば、前訴請求を選択的併合と法律構成すべきであるという見解がある。一部請求に理由がなければ次の一部請求額の部分について順次判決を求めたのだから、請求が棄却された場合には債権の全部について既判力が生じており、後訴請求は棄却すべきである*4。これに対して、本件では、選択的併合という法律構成を採ることができず、判決理由中の判断に既判力は生じないから、残部に既判力は生じない。

しかし、請求が棄却された前訴請求と後訴請求とは、債権の発生原因として主張する事実は同じであって、実質的には紛争の蒸し返しであり、この点は前訴請求における損害費目の限定の有無によって異ならない。

よって、本件のような場合も射程に収めるために、請求棄却された前訴請求と後訴請求とが債権の発生原因として主張する事実が同じであれば、信義則違反として訴えを却下すべきである。

 

コメント 

 

*1:過失相殺を考慮した一部請求であって、原告が外側からの相殺を望むのであれば、外側からの相殺の利益を受ける原告が、その旨を明示する信義則上の義務を負う。三木2008「一部請求論の展開」

*2:佐瀬2009p.154

*3:勅使河原2012「一部請求におけるいわゆる「明示説」の判例理論」p.72

*4:松本2001が紹介するZitelmann説

UNIT 13 立証活動

重要論点

Q1

1)Xが証明責任を負う、会社法423条にもとづく損害賠償請求の請求原因となる事実は、1.Yの取締役としての判断決定による行為であること。本件でいえば、Yが取締役であり、その業務としての指示または監督により本件取引が行われたこと。2.任務懈怠。とくに本件では、Yが、友好的な関係にあるB株式会社に利益を得させようという動機から、A株式会社に生じるべき損害を知りながら敢えて取引(2014年9月1日から2017年8月31日まで、B株式会社に安価に穀物を廉売)をし、A株式会社に得られたはずの相当な対価が帰属しないという損害を与えたことが会社法355条が定める忠実義務に違反したこと。3.損害の発生とその額。本件でいえば穀物の相当な取引価額とB 株式会社に対する売値の差額。4.任務懈怠と損害発生との因果関係。である。

さらに、原告適格を基礎づけるために、XはA株式会社の株主であることの証拠を提出することとなる。(会社法847条)

Yが責任を免れるために、株式会社と取締役との委任契約の趣旨及び取引上の社会通念に照らして改正民法415条但書きが定める「責めに帰することができない事由」が存在しないことを証明する余地はあるか。忠実義務は、法令遵守義務のような結果債務とは異なり、忠実義務違反が認められるとき、すでにYの主観や行為態様に対する評価が含まれているから、帰責事由の不存在を証明する余地はない。

Yは抗弁として、本件取引を決定する過程が、判断までにどの程度時間をかけるべきかの裁量を考慮して著しく不合理とまではいえないこと、判断内容が当時の客観的事情から著しく不合理とまではいえないことを主張立証することが考えられる*1。この主張は、Yが経営判断として広い裁量を有するという行為規範としての実体法解釈と、自らの判断過程の合理性について証拠の偏在を理由にYにも証明責任を負わせることとを前提としているが、本件のようなYとA株式会社との利害対立が追求されている場合には、一般に取締役が会社に不利益な判断をする危険が大きいため経営判断の原則は適用されないから、前者の実体法解釈は否定される。

裁判所は、単に、Xが請求原因となる事実を立証できたかを審理判断すればよい。もっとも、Yが何ら立証活動をする必要がないかは別の問題である。

2)

3)

Q2

1)4号イ、ロ、ハ(証言拒絶権が保障されている事項が記載されている文書)は、3号(利益文書又は法律関係文書)に類推適用される。1号(引用文書)には類推適用されないが、訴訟上の信義則に照らして、専ら被申立人が有する権利は放棄されたとしても、証言拒絶権として保障された第三者の権利に配慮しなければならず、引用文書に当たらない場合もあると解すべきである。

3号後段(法律関係文書)と4号ニ(自己利用文書)については、法律関係文書はもともと自己利用文書を含まない概念だから、4号二を適用する余地はない。

4号ホは、1号及び3号に類推適用されるが、刑訴法47条が定める保管者の不提出とする判断が、本件民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性をも考慮して、裁量権を逸脱又は濫用するものであると認められるときは、裁判所は文書提出命令をすることができる。

2)民事訴訟法220条4号ニにいう専ら文書の所持者の利用に供するための文書とは、1.専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、2.開示により団体の自由な意思形成が阻害されるなどの不利益が生じるおそれが認められるもので、3.自己利用文書であることを否定する特段の事情がないものをいう。

本件文書は稟議書であって、1.内部文書であることは明らかである。

2.の不利益性については、自己利用文書に対する義務を免除する規定の保護法益を、文書の作成・保管を促進することの公益的な価値に求める趣旨から、具体的な記載内容を問わず肯定すべきとする見解*2がある。しかし、この解釈は、当事者間の公正さや証拠の偏在の防止により達成されるべき*3、真実に即した裁判の実現を不当に阻害する*4から妥当ではない。民事訴訟法220条6号によるインカメラ手続ができる*5から、類型的にではなく、具体的に、開示による団体の自由な意思形成を阻害するおそれを認定すべきである。問題文の記載からは、不利益性を満たすかは明らかでない。

本件訴訟は株主代表訴訟であるから、会社と株主の関係は、いわば内部関係であって、3.自己利用文書であることを否定すべき特段の事情が認められるようにも思える。しかし、会社法上、株主が閲覧や謄写を請求できる文書は限定的に定められており、Xは、本件稟議書を閲覧または謄写する請求権を有しないから、特段の事情は認められない。

3)本件通達文書は、既になされた意思決定の内容を伝達するものであって、開示が自由な意思形成を阻害する性質のものではない。また、具体的な事情はインカメラ手続により認定されるべきであるが、営業秘密に関する事項が記載されたものでもない。よって、2.不利益性が認められないから、自己利用文書に当たらない。

4)

Q3

1)

2)

 

コメント 

*1:経営判断の原則が適用されると抗弁に回るとする文献に、永石一郎「内部統制システム構築義務とその主張・立証責任の構造」p.383,4

*2:垣内2008「自己使用文書に対する文書提出義務免除の根拠」

*3:竹部晴美2013「最決H23.10.11」法と政治63(4)p.168

*4:長谷部新版p.215

*5:竹部2013p.168

UNIT 9 弁論主義・自白

重要論点

Q1

1)

2)自己に不利益なある主要事実を認めるとか争わないという旨の陳述をしたとき、私的自治を根拠とする弁論主義第二テーゼの適用により審判排除効が生じると解されている。そこで、所有権の来歴についてYがAのもと所有を認めたとき、所有権も「事実」に当たるとみなしてよいかが問題となる。これについて、あくまで法規の適用は、法規の解釈と同様に裁判所の専権に属するから、もと所有を認める陳述に審判排除効は生じないとする見解がある。

しかし、先決的権利の存否について当事者間の一致があるにも関わらず裁判所に証拠調べを求めるのは迂遠で訴訟経済に反するから、当事者が当該権利の意味内容を理解したうえでそれを争わない意思が明らかであれば、審判排除効が生じると解すべきである。

訴訟経済を理由とするのであれば、不要証効を定めた民事訴訟法179条のみを適用すれば足りるとする見解もあり得るが、不要証効は、審判排除効が生じる結果として当然に生じるものであって、民事訴訟法179条はこれを確認的に定めた規定である。

裁判所は、民事訴訟法179条の不要証効により、Aもと所有を判断の前提としてよい。仮に、裁判所が証拠調べの結果Aが甲地を所有していたと認めることはできないと判断した場合でも、弁論主義第二テーゼにより審判排除効が生じるから、裁判所はAもと所有を判決の前提とすべきである。

Q2

1)民事訴訟法179条による不要証効が生じると、当事者は証拠を収集することをやめたり、証拠を廃棄したりするかもしれない。よって、相手方の信頼保護を根拠に、自白の撤回は制限される。自白は当事者の意思表示であるから、錯誤に基づく自白は撤回することができる。錯誤の証明は困難だから、反真実を証明すれば錯誤が推定される。

2)

Q3

1)本件では、YがBに金員を支払った趣旨が争点となっている。

当事者は何を主張すべきかという、弁論主義の適用がある事実を定めるに当たっては、訴訟の勝敗に影響する重要な事実であるか、つまり真の争点を構成しているかが重要と解すべきである。*1よって、主要事実に加えて、主要事実の認定を左右する間接事実(以下、重要な間接事実という。*2 )も、弁論主義が適用される。

Xの甲地所有は、XのYに対する甲地所有権にもとづく乙収去甲明渡し請求の請求原因となる主要事実である。本件では、甲地の所有権移転をめぐって、登記の通りB売主X買主甲地売買契約がありXが甲地を所有するに至ったのか、真実はB売主Y買主甲地売買契約があったのかが争点となり、「売買代金はXがYの銀行口座に振り込みYがBに支払った」ことは、前者の売買契約を推認させる重要な間接事実となっている。Yは当該重要な間接事実を認めるという自己に不利益な陳述をした。

よって、Yの自白に不可撤回効が生じ、これと両立しないYの主張は許されない。もっとも、Yは自白に錯誤があったことを立証すれば、不可撤回効が解除される。

2)「売買代金はXがYの銀行口座に振り込みYがBに支払った」というYが自白した事実と併存不可能な、「XがYに1億円を貸し渡し、Yはこれを甲地買戻し売買代金の弁済にあてた」という事実を裁判所が認定することは許されるか。

これについて、自白された間接事実と証拠調べの結果認められた間接事実が併存不可能であるとき、自白の拘束力を維持するならば、自由心証主義による当該要件事実の認定が不可能になるから、当該自白の拘束力を解くべきである*3。また、XがYの銀行口座に1億円を振り込んだ趣旨から、それだけでBX間甲土地売買契約の要素であるXのBに対する代金支払約束がなかったという推認は働かないから、重要な間接事実には当たらず、弁論主義第二テーゼは適用されない。

裁判所は、「XがYに1億円を貸し渡し、Yはこれを甲地買戻し売買代金の弁済にあてた」と認定することができる。

Q4

1)

2)

 

コメント 

Q1で審判排除効の生じる事実と不要証効が生じる事実を分けると、Q3が解きづらい。Q4.はどちらも弁論主義の第一テーゼに反し違法ですが、古い最高裁判決にも言及しなさいということでしょうか。

*1:田尾1969「主要事実と間接事実にかんする二、三の疑問」p.289,290

*2:田尾説を修正した高橋説

*3:中西p.49

11.横領、背任

第一事件
平成27年1月25日、取締役Aが会社の裏金口座からセブン・ステップの口座宛てに10万円を振込送金させた行為

本件裏金口座はA個人の名義の口座であることから、業務上横領罪が成立するか、会社法上の特別背任罪が成立するかが問題となる。両罪ともに、財産犯で委託信任関係を保護法益とし重なり合いが認められるから、法条競合の関係にある。刑の下限を比較すると、罰金刑のみを科すことができる特別背任罪の方が軽いから、まず、業務上横領罪が成立するかが問題となる。*1

Aは経理等の職務に従事する専務取締役だから、預金に関する事務は社会生活上の地位に基づき反復継続して行う事務であって、「業務上」の要件を充足する。

裏金口座の預金についてAの占有は認められるか。横領罪の当罰性の根拠は、濫用のおそれのある支配力を有する行為者の地位に着目した、財物の不当な処分である。よって、占有は法律上の占有で足り、銀行には「占有」はない。

ここで、占有が認められるのは、会社か、Aかが問題となるが、預金口座の名義人はAであり、Aが預金債権者として払戻し権限を有するから、Aの占有が認められる。

「横領した」とは、委託の趣旨に反して、所有者でなければできないような処分をする意思を実現することをいう。AがBに対して振込送金をする指示をした行為は、それだけでは所有権侵害が確定的に生じるものではないから、「横領した」に当たらない。*2そこで、Bが10万円を振込送金した行為が問題となる。Bは、占有者の身分がないから、委託物横領罪の正犯は成立し得ない。AとBとの共同正犯は成立しないから、Bの振込送金がAによる業務上横領罪の実行行為とみることができるかが問題となる*3。Bは不正な送金であるという反対動機を基礎づける事実を認識しつつ送金を行っている。しかし、上司の指示であり拒むことが容易でない関係にあり、かつ送金が機械的な作業であることを考えると、送金行為になんらB独自の判断はなく、Aの意のままに動いたという実質がある*4。よって、犯罪実現の道具に過ぎないBの送金は、Aが振込送金の指示により着手した横領の実行行為の一部であり、Aには業務上横領罪の間接正犯が成立する。

Bの送金は、業務上横領罪の幇助犯が成立するが、刑法65条2項により委託物横領罪の幇助犯の刑が科せられる。

なお、背任罪は、全体財産に対する罪であって、任務違背が認められるには、背任罪にいう「事務」として行為者に全体財産の維持管理に関するある程度包括的な裁量権が認められている必要がある*5ところ、Bは秘書であって、Aの指揮命令に従い送金事務を含む業務を遂行する立場にあり、その裁量は乏しいから、背任罪の正犯の成立を認める余地はない。

第二事件

*1:城祐一郎「事例で学ぶ適用法令の関係性 特別背任罪(会社法)と業務上横領罪(刑法)」警察公論71巻12号

*2:『刑事実体法演習』p.372辛島によれば、山口説•山中説

*3:業務上横領罪が成立しない場合は、特別背任罪の成立が問題となる

*4:最判S25.7.6刑集4.7.1178参照。もっとも、松宮説•前田説によれば直接正犯の判例

*5:もっとも、判例は二重抵当の事例で登記義務者に背任罪の成立を認める。

H17司法試験 憲法 第1問

1.本件規制は憲法22条1項が保障する職業選択の自由を制約する。

免許の要件が、例えば研修の受講のような本人の意思や努力次第で充足し得る要件だった場合、免許制を採ることは憲法22条1項に違反しないか。また、酩酊者に酒類をさらに提供することを免許の取消事由として定めることは憲法22条1項に違反しないか。

職業は、自己の生計を維持する手段であるから、許可制を採用するに当たっては、既存の営業者が直ちに廃業に追い込まれることのないよう配慮すべきである。酒類の摂取による迷惑行為の抽象的危険や飲酒の健康被害のような立法事実が認められ、その防止と免許制を採るという手段には合理的関連性があるから憲法22条1項に違反しないが、経過措置規定を設けるなどの配慮が必要である。

酩酊者にさらに酒類を提供することを規制することは、立法事実は認められるが、仮に「取り消さなければならない」という規定ぶりならば、軽微な違反事例でも常に免許が撤回され、違反者は生計の途を奪われることとなるから、憲法22条1項に違反し無効である。「できる」規定や営業停止命令を設けるなど、より制限的でない手段によるべきである。

免許の要件が場所や店舗数の制限だった場合、本人の意思や能力では充足できない客観的な要件であるといえる。職業は各人が自己の個性を全うすべき場として、個人の人格的価値と不可分であって、客観的な要件による許可制はこのような人格的価値の実現を阻害するから、より厳格な基準により審査すべきである。酒類の摂取によって迷惑行為の抽象的な危険が生じることや、重大な健康障害の原因となることは明らかであって、規制の目的は重要である。また、酩酊者がさらに酒類を摂取することを防止することは、酒類の致酩性・依存性も相まって飲酒をする者の意思では困難だから、規制の客体を酒類提供者とすることや、入手経路を限定することは必要かつ合理的な手段である。よって、憲法22条1項に違反しない。

 

2.飲酒をする自由は憲法13条により保障されるかが、まず問題となる。酒類は致酩性を有し、飲酒は迷惑行為や、極端な場合には暴行その他の犯罪行為を誘発するから幸福追求権として保護するに値しない(賭博罪に関する刑集4巻11号2380頁参照)という見解が考えられる。しかし、飲酒は伝統的に容認されてきた行為であって、文化を享有することを妨げられない自由は、個人の人格的生存に不可欠な行為をなす自由の一つとして憲法13条により保障されるというべきである。よって、一般的な行為の自由よりもより厳格に審査すべきであって、目的が重要で、その手段が必要かつ合理的でなければ許されない。

本件規制の目的は複数あるが、迷惑行為の防止は、迷惑行為の中には暴行や器物損壊のような刑法上の犯罪に当たる行為も想定されることから重要といえる。

また、本人の健康の保護も重要な目的といえるが、これに対しては、憲法13条は私事に関する自己決定権を保障したものであって、本人の意思に反して健康を保護することは憲法上は重要な目的とは認められないとか、「公共の福祉」に含まれないとの反論が考えられる。しかし、本人の健康は公的医療保険の財政にも影響を与えるなど、全くの私事とはいえないから、やはり重要な目的といえる。

本件規制の手段は、禁止場所を道路、公園、駅その他の公共の場所に限定している点で、迷惑行為の防止のために必要かつ合理的であり、私的な空間における行為の自由にも配慮している。また、罰則は拘留又は科料であって、犯罪の中でも最も緩やかである。

しかし、迷惑行為の防止という目的からは、ハロウィンやオリンピックのようなイベント開催時の、特に人が集まりやすい場所に禁止の日時及び場所を限定すれば足り、あとは警察官による警職法上の権限行使などのより制限的でない手段によるべきであり、健康保護という目的からは、飲酒が禁止される場所が限定され過ぎていて、アルコール度数を考慮して酒税の税率を引き上げるなどの手段と比べて実効性に欠けるし、そもそも行為者本人の利益(この法律では健康)を保護法益として刑罰を科すことは正当化できない。よって、憲法13条に違反する。

違反者に拘留又は科料を科すことは、軽犯罪法や酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律などとの罪刑均衡の要請に反し、憲法14条に違反しないかが問題となる。とくに、刑罰を科すことは身体の自由や名誉といった個人の尊厳にかかわる権利の制約となるから、正当な理由の有無の審査はその分厳格であって、区別して取扱うべき者を区別しなかった場合にも違憲となり得る(罪刑均衡に反して刑罰を科すことが平等権を侵害することについて、尊属殺重罰規定違憲判決参照)。確かに、迷惑行為として、軽犯罪法迷惑防止条例に違反する行為やそれに至らない迷惑行為のみが想定されていれば、迷惑行為の抽象的危険を惹起するに過ぎない飲酒行為に刑罰を科すことは、等しくない者は等しくないものとして取り扱うことを要求する憲法14者に違反し、過料などの手段を検討すべきこととなる。しかし、飲酒行為に起因して刑法上の犯罪が行われる場合もあることはよく知られているから、憲法14条に違反しない。

 

参考

WHO「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」http://alhonet.jp/who.html

渋谷駅周辺地域の安全で安心な環境の確保に関する条例

鎌倉市海水浴場のマナーの向上に関する条例

R1 予備試験行政法 設問2

A県屋外広告物条例は、屋外広告物法による委任条例であって、一般に再委任は細目的な事項についてのみ許される。再委任を行うとしても、条例上、不確定概念で要件を定めた場合に、規則によって当該不確定概念の解釈を明確にする程度の細目的な事項の委任にとどめるべきである。条例6条1項及び9条は、規則を定める際の目的も基準も何ら示しておらず、解釈によっても屋外広告物法及び屋外広告物条例の目的規定並びに条例2条に合致すべきという黙示の目的以外読み取れないから、屋外広告物法の委任に反し違法無効である。

 

A県は反論として、「すべての条例は、法律の委任ではなく、憲法94条により授権された自主立法権に基づき制定される規範であって、法律により特別に制約を受けることがあるに過ぎない。条例の委任をうけた規則の適法性は、法律の委任をうけた政省令その他の命令の適法性と同じ基準により判断すべきである。」「再委任に当たるとしても、その適法性はあくまで屋外広告物法の委任規定の趣旨によって判断すべきであり、再委任の限界が細目的な事項にのみ限定される理由はない。」と主張することが考えられる。

そこで、規則への委任*1屋外広告物法の趣旨に反しないかが問題となる。屋外広告物法や屋外広告物条例の規制は、憲法21条が保障する表現の自由を制約するがそれにも関わらず厳格審査基準によって違憲とされないのは、表現の内容に賛同できないことを理由とする規制だけでなく、表現行為による弊害を理由とする規制までほとんど機械的に杓子定規に違憲無効とすれば、議会の権限が狭められて*2、かえって、表現の自由がもつ自己統治の価値を薄めるからである。条例から規則への委任は自己統治の価値を薄める。法律が明文では規則への委任を認めていない以上、条例6条1項及び9条は、規制目的と表現の自由の調和を図る屋外広告物法の趣旨に反し違法無効である。

 

仮に条例は適法だとしても、屋外広告物規則により表現の自由を制約するには、議会における討議を経て民主的正統性がより高い条例において、委任の趣旨が明確に読み取れることを要する。場所的な規制は条例6条1項1号から5号に定められているから、条例9条の委任は色彩や大きさ、高さなどの場所以外の要件であって、規則別表第5第二号ハは違法無効である。

これに対して、一定の場所における広告物の表示をすべて禁止するのではなく、建物等から独立させるという方法による広告物の表示を規制するに過ぎないから「基準」という用語による委任の範囲内だとする反論が考えられる。しかし、色彩や大きさ、高さの規制と比べて一定の種類の屋外広告物を禁止する規制は表現の自由を制約する程度が強いから、明示の委任によらなければ許されない。

仮に、本件規制が「基準」という文言じたいの可能な意味の範囲内だとしても、鉄道からの距離に着目しながら、鉄道から展望できるか否かを区別しない点で、景観を保護するために必要な限度で規則に基準の定めを委任した条例6条1項及び9条の委任の範囲を超え、規則別表第5第二号ハは違法無効である。

 

場所に着目した基準を明示の委任によらず規則で定める例

奈良市規則:許可の基準(条例11条の委任)について、広告塔及び広告板等は、自家広告物等を除き、「鉄道又は道路敷及びこれらから展望できる範囲で当該鉄道又は道路敷から100メートル以上の場所に設置し、かつ、広告物相互の間隔は、100メートル以上であること」と定める(別表2第2号広告塔及び広告板又はこれらを掲出する物件1号)。

埼玉県規則:許可の基準(条例6条2項の委任)及び自家広告物等であるがその表示又は掲出を許可制によるべきとされたものの許可基準(条例10条1項の委任)として、新幹線鉄道の方を向いた壁面利用広告の表示を禁止する(別表1第1号)

金沢市規則:禁止地域の規制の適用除外の基準(条例12条2項1号の委任)について、同じ禁止地域でも種別を設け、自家広告物につき異なる基準によって規制する(別表3)。屋外広告物等の規格(条例15条の委任)について、同じ禁止地域でも種別を設け、異なる規格によらなければならない(別表4第3号)。

神奈川県規則:許可地域の基準(7条の委任)について、規則で自然系・住居系・工業系・沿道系・商業系という独自の概念を設けて許可地域を細分化し、地域によって異なる高さや大きさの基準を設ける(規則別表2)。

 

コメント

奈良市規則のような規定ぶりによる距離制限は違法という立場です。

ふつうに権利の重要性や規制の強度を理由に、「授権の趣旨が明確に読み取れることを要する(ケンコーコム事件最判)」と論じるべきだったのかもしれませんが、それは職業の自由や、立法例も参照しても独禁法の課徴金納付命令の要件規定のような財産権の事例で、表現の自由までなんの理屈もなく射程を拡げるのはやや躊躇がありました。(もっとも、参政権について解職請求事件最大判の藤田補足意見、宮川櫻井補足意見がありますが。)規制の強度が足りないと反論されそうだし、Active Libertyを読んでいる途中なので、かぶれているので。

都道府県は憲法上の地方公共団体か否かに議論があるうえ、憲法94条にいう「条例」は長の定める規則を含むとする見解が多数説なので、憲法94条を援用しない方がよかったかも。

再委任のところは、ワークブック法制執務説と塩野説です。

*1:北村「分任条例の法理論」自治研究89巻7号27頁は、条例に任せられた趣旨を踏まえ、自治体にとっての重要事項は条例で定めるべきとする

*2:Stephen Breyer(2005) Active Liberty: Interpreting Our Democratic Constitution