Ⅱ-2
(1)(a)
①Xの甲土地所有
・Xは甲土地所有権の登記名義人である。
②甲土地をZ所有の乙建物により占拠している。
①②により、物権的返還請求権として、Zに対して乙建物を収去して甲土地を明渡すことを求める。
Zは①に反論してして登記による事実上の推定を覆すこととなる。そのために、抗弁としてZが甲土地の占有権原を取得するまでの来歴を主張立証する。
・甲土地はPがもともと所有していた。(このことは争いがない)
・1980年5月5日PからAへ甲土地が贈与された。
・1992年4月4日Aが死亡し相続を原因としてYが甲土地所有権を取得した。
・2001年12月12日YZ間の甲土地賃貸者契約に基づきZが甲土地の占有権原を取得した。
Xは1980年5月5日贈与契約を否認するとともに、再抗弁として2001年1月10日PからXへ甲土地所有権を移転する旨の売買契約が締結され、同日登記を備えて対抗要件を具備し、177条により確定的に所有権を取得したことを主張立証する。この主張は認められる。
Zは抗弁として、1980年5月5日にAが過失なく開始した甲土地の占有により1990年5月5日にYが時効取得していたとして時効を援用(民法162条2項、186条)すること、1980年5月5日にAが開始した甲土地の占有によりYがAの占有を承継(民法187条1項)していた2000年5月5日には甲土地をYが時効取得していたとして時効を援用すること(民法162条1項、186条)、1992年4月4日Yが過失なく開始した固有の占有にもとづいて2002年4月4日に甲土地をYが時効取得したとして時効を援用することが考えられる。なお、どの取得時効を援用するかは対抗問題、立証の難易度、登記手続の手間などを考慮して援用権者が選択することとなる。
A開始の占有による時効取得の抗弁に対する再抗弁として、時効取得後の2001年1月10日にPX間で甲土地売買契約が締結され対抗問題となり、同日登記を備えて177条によりXが確定的に甲土地所有権を取得したと主張立証することが考えられる(判例の登記尊重説に基づく主張)。これに対し、10年あるいは20年以上の占有の方がかえって他の者の登記によりその権原を失うおそれが大きいというのでは継続した占有を尊重する取得時効制度の趣旨に反するから、時効取得の起算点は権利を得る者が自由に選択でき177条の対抗問題となる余地はないとする見解があるが、登記の公示力を尊重する観点から妥当でない。
再再抗弁として、時効取得の要件となる長年の占有などを知っていて時効取得につき悪意であり、かつ所有権取得の態様が背信的で177条にいう「第三者」として登記による対抗要件具備を主張することが信義則に反する事情があると主張立証することが考えられる。しかし、XがPの説明をうけてYの占有を他主占有だと思っていたとすると、時効取得について悪意であったとは認められない。 どちらの理由に基づくとしても、Xは登記の具備により確定的に所有権を取得しており、Zに対する乙建物収去と甲土地明渡しの請求は認められる。
これに対して2002年4月4日時効取得の援用を選択すれば、対抗問題とならないからXの請求は棄却される。
(b)
乙建物所有権の登記名義人Yは、2001年12月12日売買契約による乙建物所有権の喪失をYに対抗できない。その根拠は177条が「得喪」という文言を用いているからである。したがって、Xの請求が認められるとYの費用負担で乙建物を収去し甲土地を明渡す義務をXに対して負うこととなる。
コメント もう少し設問の事実に即して当てはめをしたほうがよさそう。二重譲渡と時効取得で有利な方の法的構成を選択できるのでしょうか?参考判例がいかせてないのも引っかかる。