予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

第6章 接見交通権と接見指定

設例についての問い

1.

2.刑訴法39条3項は、検察官は捜査のために必要があるときは接見指定をすることができる旨定めているところ、「捜査のために必要があるとき」の意義が問題となる。憲法34条は、国家による被疑者の身柄の拘束を認めたことと引換えに、弁護人を付すことにより被疑者が外界との連絡を遮断されないようにする趣旨であって、憲法34条は接見交通権を保障していると解される*1。したがって、憲法34条が保障する接見交通権は絶対的に保障された権利であって、刑訴法39条3項にいう「捜査のために必要があるとき」とは、現に実況見分に立ち会っているときその他の接見が物理的に不能なときをいうものと限定解釈すべきである。

4月4日Pの接見拒否は、間近な捜査の予定を理由とするものであって、刑訴法39条3項にいう「捜査のために必要があるとき」の要件に該当せず、違法な接見妨害である。

憲法34条が保障しているのは単に弁護人を依頼する権利であって、接見交通権は憲法上の権利である弁護人依頼権に由来するにとどまり、憲法が前提とする刑罰権の発動及びその発動のための捜査権の行使との間で合理的な調整がなされる相対的な権利であって、捜査の間近な予定があるときは接見指定により接見交通権を制約することができると解されるとの見解も考えられる。そうだとしても、Xは3月30日に弁護人に助言を受けたときから取調べに対して黙秘を続け取調べに応じない意思を明らかにしていたのに、PはXに取調べに応じるよう求め続けている。身柄拘束状態を利用して意思を制圧し、取調べに応じることを強要することは、プライバシーの権利に対する重要な介入であって*2、個人の意思を制圧し重要な利益を侵害する強制処分に当たる。よって、強制処分法定主義に違反する違法な手続である。刑訴法198条1項但書きを反対解釈して勾留中の被疑者の取調受忍義務を肯定する見解もあるが、どのような法の趣旨から刑訴法198条1項但書きを反対解釈すべきことが導かれるのか理由づけがないから採用できない。

仮に取調受忍義務があると解しても、取調べ前に接見を行っても捜査に顕著な支障が生じないのであれば「捜査のために必要があるとき」に該当しないから、違法な接見拒否となる。さらに、接見指定が比例原則に違反していないかが問題となる。取調べを長時間継続して行うことはそもそも必要性がなく、Pが取調べを短時間におさめる配慮をしなかったことは憲法の保障に由来する接見交通権の制約として相当性を欠くから、違法な接見指定である。

3.4.憲法38条2項及び刑訴法319条の列挙する「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」は自白採取方法が違法な自白又は違法な身体拘束中の自白の例示と考えられる。これを本件についてみると、勾留は憲法34条による接見交通権の保障と引換えに適法とされるところ、4月1日朝に接見交通権が違法に侵害された後の勾留は、違法な勾留であって、4月5日付け自白調書記載の自白は、違法な身体拘束中の自白であるから、当該自白調書は証拠排除すべきである。

接見交通権の侵害があったからといって勾留が違法となることはない(最決H1.1.23判時1301号155頁参照)と解したとしても、「強制」すなわち供述の自由の侵害により獲得された自白*3又はその疑いのある自白であるならば、4月5日付け自白調書は証拠排除すべきである。確かに、違法な接見指定の後に、一度弁護人と接見する機会があったのだから、接見拒否により外界との接触を閉ざされたことの影響がこのとき遮断され、自白の任意性に疑いがないようにも思える(前述最決H1.1.23参照)。しかし、連日の身体拘束下の取調べによりXの抵抗する意思が弱まっていたと推認され、取調べの態様もXが黙秘を続けていたにもかかわらず継続して行われたものであって心理的圧迫が加わっており、前日に接見交通権の侵害があったうえに、接見の時間は30分のみで短く心理的強制の危険性を排除するものではない。これらの事情との因果関係が疑われる4月5日付け自白調書記載の自白は、強制による自白又は任意にされたものでない疑いのある自白に当たるから証拠排除すべきである。

5.別件捜査のための接見指定は、当事者主義的手続において検察官と被疑者及び弁護人とが対等であるべきことに反して「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものであって、刑訴法39条3項但書きに該当するから、違法である。

6.接見交通権は弁護人の固有権であり、また、接見内容は防御情報等の秘密を含み得ることから、秘密交通権は被疑者のみの意思によっては放棄できない権利であって、弁護人の事前の同意がなければ被疑者から接見内容を聴取することができないと解される*4。これを本件についてみると、Kは弁護人の事前の同意を得ていないから不適切な取調べである。

 

コメント

不任意の疑いのある自白の論証の書き方がよく分からない

 

*1:村岡啓一1997「34条」『憲法的刑事手続』p.287

*2:後藤昭『捜査法の論理』p.163

*3:青木孝之2007「自白排除法則再考」

*4:葛野2012『未決拘禁法と人権』p.333