予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

3.抽象的事実の錯誤、共謀共同正犯

Bの罪責(4,6)

Bは10月10日夜、殺意をもって、Xを狙い拳銃の引き金を引いたが、Xを死亡させなかった(4)。そこで、殺人未遂罪が成立するかが問題となる。

違法性の本質は結果無価値にあるから、殺人の実行の着手があったといえるかは、行為時に存在したすべての事実を基礎に行為の危険性を評価して判断される。

たとえば仮に、銃口はXを向いていたが、弾丸は常に同一の軌道を通るわけではない性質があるために命中しなかった場合であれば、殺人の実行の着手に当たる*1が、弾丸の火薬が不良だった本件行為ははじめから人を死亡させる危険性がなく、殺人の実行の着手に当たらないようにも思える。しかし、行為時に存在したすべての事実を基礎とした判断をより徹底すれば、未遂犯はすべて不能犯になってしまう。一般人の立場から判断して存在し得た仮定的事実を付け加えたうえで行為の危険性を評価すべきであり、火薬不良ではなかったためにXが死亡したということもあり得たのだから、結局、本件行為には人を死亡させる危険性がある。また、拳銃の引き金を引く行為は殺人の実行行為そのものである。よって、殺人の実行の着手に当たる。

よって、殺人未遂罪が成立する。

Bは10月15日夜、Xに殺意をもって、飼い犬と散歩中のXを狙い拳銃を2発発射し、Xと飼い犬を死亡させた(6)。2発の発射行為は1個の意思に基づく一連一体の行為であり、1つの行為といえる。

この行為により、Xに対する殺人罪のほかに、飼い犬を死亡させた結果について器物損壊罪が成立するか。器物損壊罪の故意が認められるかが問題となる。

故意犯が責任を負うのは規範の問題に直面したにもかかわらず敢えて行為したからであり、行為者の認識した犯罪事実と発生した犯罪事実が具体的に符合していなくても、構成要件において符合している限り規範の問題に直面したといえるから、故意を阻却しない。

殺人罪と器物損壊罪という別の犯罪であり、しかも構成要件は重ならないし、仮に実質的な構成要件の重なり合いを問題にしても、人の生命と財産では保護法益が異質であり、殺人の故意により器物損壊罪の故意を認めることはできない。

しかし、Xを狙っても、弾丸が飼い犬に当たることは当然に予測できるから、Bがよほど射撃に自信がある場合を除き、器物損壊罪の未必的な故意が認められ、器物損壊罪が成立する。

A及びCの罪責(4)

Cは、Bと本件拳銃発射の計画について意思の連絡があり、拳銃の購入を分担し、10日の夜もともに犯行現場に赴いた。よって、殺人未遂罪の共同正犯が成立する。

Aは、B及びCにXを殺すように言うことで、殺人の意思の連絡をした。また、AはB及びCの上司としてまた本件計画の発案者として、実行行為に決定的な心理的因果性を及ぼし、加えて、拳銃と弾丸の資金を準備することで、正犯としての処罰に値する*2重要な役割を果たした。Aは確かに実行行為を担当したわけではないが、発案者として、本件拳銃発射を自分たちの犯罪として実現しようとする意思を有していた*3。よって、殺人未遂罪の共謀共同正犯が成立する。

A及びCの罪責(6)

Bが10月15日、殺人罪の実行行為をする以前の13日に、Aが「今回はやめておこう」といい、Cもこれを受けて「そうであれば、私は降ります」といい15日には同行等もしていない。そこで、殺人罪の共同正犯として罪責を負うかが問題となる。

結果との因果関係が切断されたときには、責任を負わない。拳銃と弾丸はAの提供した資金により購入されたが、Aは拳銃を処分しろと指示するだけで、それ以上の措置はなく、Aの10月13日以前の行為による物理的効果が残存している。よって、共同正犯としての責任を負う。

Cがいたからこそ拳銃と弾丸が購入できたなどの事情があれば、物理的効果が残存しているから、Cも共同正犯としての責任を負う。

仮に、B自身でも容易に拳銃と弾丸を購入できた場合はどうか。CはBと具体的な拳銃発射の計画を立てて準備をすすめ、Bの犯行に及ぶ意思を強めたといえる。また、Bに対して説得をするなど結果防止のための措置をとっていない。拳銃と弾丸の購入という重大な物理的効果に加えて心理的効果も考慮すれば*4、Xが死亡した結果との因果関係は切断されていない。よって、共同正犯としての責任を負う。

D及びBの罪責(7)

他人の刑事事件に関する証拠である拳銃と余った弾薬を、海に投棄して隠滅したから、Dには証拠隠滅罪が成立する。(刑法104条)

Bには証拠隠滅罪の教唆犯が成立するか。刑法104条が犯人自身による証拠隠滅を処罰範囲から除いたのは、期待可能性がないからであり、教唆犯にもこの趣旨は及ぶから処罰されないと解すべきである。これに対して、他人を巻き込んで証拠を隠滅するのは防御の濫用であって、教唆犯が成立するとの解釈もある。しかし、犯人自身による行為であっても証拠隠滅は正当な防御活動とはいえないから、採用できない。

罪数

異なる機会に行われたか、器物損壊罪については被害法益が異なるから、すべて併合罪の関係にある。

*1:客観的危険説を採る村井敏邦不能犯」芝原ほか編1990『刑法理論の現代的展開 総論』参照

*2:裁判員裁判における法律概念に関する諸問題(6)共犯(1)共謀共同正犯の成立要件(下)」判タ62(23)

*3:前掲の判タ62(23)は、正犯意思抜きの論証と正犯意思を要件とする論証の両方を用意している

*4:犯罪実現に不可欠でないとしても教唆犯だとまで主張する自信はなかった。もっとも、心理的因果性を安易に補填的に考慮することがないようにすべきである。金尚均2006「承継的共同正犯における因果性」立命館法学2006(6)(310)参照。よって、より具体的な事実関係に照らした検討が必要になる。