予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

第6章 接見交通権と接見指定

設例についての問い

1.

2.刑訴法39条3項は、検察官は捜査のために必要があるときは接見指定をすることができる旨定めているところ、「捜査のために必要があるとき」の意義が問題となる。憲法34条は、国家による被疑者の身柄の拘束を認めたことと引換えに、弁護人を付すことにより被疑者が外界との連絡を遮断されないようにする趣旨であって、憲法34条は接見交通権を保障していると解される*1。したがって、憲法34条が保障する接見交通権は絶対的に保障された権利であって、刑訴法39条3項にいう「捜査のために必要があるとき」とは、現に実況見分に立ち会っているときその他の接見が物理的に不能なときをいうものと限定解釈すべきである。

4月4日Pの接見拒否は、間近な捜査の予定を理由とするものであって、刑訴法39条3項にいう「捜査のために必要があるとき」の要件に該当せず、違法な接見妨害である。

憲法34条が保障しているのは単に弁護人を依頼する権利であって、接見交通権は憲法上の権利である弁護人依頼権に由来するにとどまり、憲法が前提とする刑罰権の発動及びその発動のための捜査権の行使との間で合理的な調整がなされる相対的な権利であって、捜査の間近な予定があるときは接見指定により接見交通権を制約することができると解されるとの見解も考えられる。そうだとしても、Xは3月30日に弁護人に助言を受けたときから取調べに対して黙秘を続け取調べに応じない意思を明らかにしていたのに、PはXに取調べに応じるよう求め続けている。身柄拘束状態を利用して意思を制圧し、取調べに応じることを強要することは、プライバシーの権利に対する重要な介入であって*2、個人の意思を制圧し重要な利益を侵害する強制処分に当たる。よって、強制処分法定主義に違反する違法な手続である。刑訴法198条1項但書きを反対解釈して勾留中の被疑者の取調受忍義務を肯定する見解もあるが、どのような法の趣旨から刑訴法198条1項但書きを反対解釈すべきことが導かれるのか理由づけがないから採用できない。

仮に取調受忍義務があると解しても、取調べ前に接見を行っても捜査に顕著な支障が生じないのであれば「捜査のために必要があるとき」に該当しないから、違法な接見拒否となる。さらに、接見指定が比例原則に違反していないかが問題となる。取調べを長時間継続して行うことはそもそも必要性がなく、Pが取調べを短時間におさめる配慮をしなかったことは憲法の保障に由来する接見交通権の制約として相当性を欠くから、違法な接見指定である。

3.4.憲法38条2項及び刑訴法319条の列挙する「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」は自白採取方法が違法な自白又は違法な身体拘束中の自白の例示と考えられる。これを本件についてみると、勾留は憲法34条による接見交通権の保障と引換えに適法とされるところ、4月1日朝に接見交通権が違法に侵害された後の勾留は、違法な勾留であって、4月5日付け自白調書記載の自白は、違法な身体拘束中の自白であるから、当該自白調書は証拠排除すべきである。

接見交通権の侵害があったからといって勾留が違法となることはない(最決H1.1.23判時1301号155頁参照)と解したとしても、「強制」すなわち供述の自由の侵害により獲得された自白*3又はその疑いのある自白であるならば、4月5日付け自白調書は証拠排除すべきである。確かに、違法な接見指定の後に、一度弁護人と接見する機会があったのだから、接見拒否により外界との接触を閉ざされたことの影響がこのとき遮断され、自白の任意性に疑いがないようにも思える(前述最決H1.1.23参照)。しかし、連日の身体拘束下の取調べによりXの抵抗する意思が弱まっていたと推認され、取調べの態様もXが黙秘を続けていたにもかかわらず継続して行われたものであって心理的圧迫が加わっており、前日に接見交通権の侵害があったうえに、接見の時間は30分のみで短く心理的強制の危険性を排除するものではない。これらの事情との因果関係が疑われる4月5日付け自白調書記載の自白は、強制による自白又は任意にされたものでない疑いのある自白に当たるから証拠排除すべきである。

5.別件捜査のための接見指定は、当事者主義的手続において検察官と被疑者及び弁護人とが対等であるべきことに反して「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものであって、刑訴法39条3項但書きに該当するから、違法である。

6.接見交通権は弁護人の固有権であり、また、接見内容は防御情報等の秘密を含み得ることから、秘密交通権は被疑者のみの意思によっては放棄できない権利であって、弁護人の事前の同意がなければ被疑者から接見内容を聴取することができないと解される*4。これを本件についてみると、Kは弁護人の事前の同意を得ていないから不適切な取調べである。

 

コメント

不任意の疑いのある自白の論証の書き方がよく分からない

 

*1:村岡啓一1997「34条」『憲法的刑事手続』p.287

*2:後藤昭『捜査法の論理』p.163

*3:青木孝之2007「自白排除法則再考」

*4:葛野2012『未決拘禁法と人権』p.333

第8章 捜索・差押え(2)

設例についての問い

1.無令状の捜索・差押えの根拠規定としては刑訴法220条1項2号がある。しかし、Xは連行されることで「逮捕の現場」から離れているからこの規定を根拠に捜索・差押えをすることはできない。これに対して、Xの身体及び所持品には証拠の存在する蓋然性が「逮捕の現場」と同程度にあり、「逮捕の現場」と同視して捜索・差押えを認めるべきとする見解があるが、憲法31条を根拠として、国会の制定する法律による民主的統制を強制処分に及ぼす強制処分法定主義に違反する類推解釈であって採用できない。

けっきょく、Xの注射器を差押えた手続は違法というべきである。

2.Xの居宅に立入り、捜索する時にXが居合わせてしかもXが立入り・捜索に反対する意思を表示しなかったということは、本件捜索は個人の意思を制圧するものではなく、任意の手続として違法はないと主張することが考えられる。

しかし、逮捕された者に付き添うことは逮捕の本来的効力であるとしても、憲法35条は無令状で侵入を受けることのない権利を保障していることから、Kらの立入りは違法ではないかが問題となる。Xは自発的に自宅に戻りたいと申出てプライバシーの権利を放棄しているのだから、憲法35条の保障は及ばず、適法な立入りである。立入りの際に一律に権利告知が必要とまで解する根拠はない。

また、憲法35条は無令状で捜索を受けることのない権利を保障していることから、Kらの捜索は違法ではないかが問題となる。これについて、捜索を任意に承諾することは通常想定できないとして承諾捜索にも令状を必要とする見解もある。しかし、場所のプライバシーすなわち管理権を有する者が真意によりその権利を放棄した場合には憲法35条の保障が及ばず、適法な承諾捜索となると解すべきである。これを本件についてみると、Xは黙示の承諾によりプライバシーを放棄していたと認めるべきかが問題となる。憲法上の権利の放棄であるから承諾が真意によるものといえるかは慎重に判断すべきであり、(1)捜索の行われる意味とこれを拒絶できる立場にあることを十分に理解しつつ、(2)任意に承諾したものであるか、により判断すべきである。

これを本件についてみると、Kらによる捜索を拒絶し得ることの告知がなく(1)捜索を拒絶できる立場にあることを理解していたとは認められない。また、任意性の判断にあたって(1)のような特別の要件は不要であるとしても、Xは一方的に捜索されることをせいぜいあきらめて黙っていたいただけであって(2)任意の承諾があったとは認められない。KらのX居宅における捜索手続は、憲法35条に違反する違法な手続である。

3.相当説によれば、令状を請求すれば許されるであろう被疑事実と関連性のある範囲で差押えが認められる。

4.

5.

6.明文の規定によれば、刑訴法220条1項2号の「逮捕の現場」に当たらないから違法のようにも思える。しかし、逮捕を完遂するために凶器・逃走具を保管する措置は逮捕の効力として本来的に許されるのであって、凶器となり得るアイスピックを逮捕者の身体の安全のために取り上げることは適法な手続というべきである。

7.KらがXをX居宅に一緒に行くように誘導したのは、その後に逮捕にともなう無令状の捜索・差押えを行い令状主義を潜脱すること目的としたものであって、任意捜査として必要性・緊急性を欠き、比例原則に違反する重大な違法がある。これを直接利用した差押えには違法性が承継される。

第7章 捜索・差押え(1)

設問についての問い

1.判例によれば、憲法35条は捜索する場所及び刑訴法上の用語でいえば差押えるべき物を明示すべきことを要求にしているにとどまり、刑訴法219条1項により令状に罪名を記載するとき、適用法条まで示さなくてもよい。

判例によれば、捜索すべき場所は、合理的に解釈してその場所を特定し得る程度に特定すべきであり、それで足りる。なお、本件令状には、X方に至るまでの共用部分に対する居住者全員の管理権が、立入りにより侵害されるのに明示されていないことが問題となるが、共用部分への立入りがX方捜索に必要な限度でなされることは令状審査のときに織り込み済みであって、共用部分への立入りには令状の効力が及ぶと解すべきである。

判例によれば、「その他、本件に関係ある物、文書」のような概括的記載も、その前の部分で列挙された物件に準ずる物、文書をいうと解釈すれば適法である。

2.室内にあるパソコンのハードディスクは令状記載の差押えるべき物に含まれるから、222条1項、110条の2第1号によりその差押えに代わる処分をすることができる。

3.4.5.捜索差押え許可状の効力は、捜索中に捜索場所に持ち込まれた物にも及び得る。裁判官は令状の有効期間内に捜索場所に差押えるべき物が存在する蓋然性を審査したのであって、差押えるべきものがいつから捜索場所に存在するかを問題としていないからである。

配達人Kが所持する荷物を開封覚せい剤bを差押えたことは適法か。仮にXが荷物を受領した等の事情があれば、荷物にはXの場所に対するプライバシーすなわち管理権が及び、荷物を必要な処分として開封し、覚せい剤bを適法に差押えることができる。しかし、本件の事情のもとでは荷物にはいまだ運送会社の占有並びに荷送人のプライバシーへの合理的期待及び貨物処分権が及んでいたのであって、令状の効力が及ばないから、覚せい剤bの差押えは違法である。

6.仮に違法な差押えであったとしてもXの権利利益を侵害する違法ではないから、証拠排除の申立適格はないと反論することが考えられる。しかし、違法収集証拠排除法則の根拠を憲法や刑訴法に求める法規範説にたつのであればともかく、違法捜査抑止や司法の廉潔性に求めるのであれば、客観法的に違法でさえあれば証拠排除を求めることができると解される。

7.憲法35条1項並びにこれを受けた刑訴法218条1項及び219条1項は一般探索を禁止し司法的に抑制する趣旨から令状による差押えるべき物の明示を要求しているところ、令状記載の物であっても、専ら別罪の証拠として利用する目的で差押えることは禁止されていると解される。メモcを差押えたとき、警察官らはV殺害の嫌疑があることを知っていたのであって、専ら別罪の証拠として利用する意図を有していたことが推認される。

8.メモcはXらの覚せい剤取引の事業の実態という背景事実を知るために必要であって、本罪とされた覚せい剤取締法違反の被疑事実と関連があり、専ら別罪の証拠として利用する意図があったとまでいう証拠はない。

9.10.憲法35条は無令状で捜索を受けることのない権利を保障しているが、捜索を受ける者が真意によりその権利を放棄し捜索を承諾した場合には、憲法35条の保障が及ばない任意捜査となると解される。憲法上の権利の放棄であるから、真意による承諾があったといえるかは慎重に判断すべきであって、捜索の行われる意味とこれを拒絶できる立場にあることを十分に理解したうえで、捜索に任意に承諾することが必要である。しかし本件では、令状による捜索に引き続いて無令状の捜索が行われ、令状による捜索と混同される危険がある*1にもかかわらず、警察官らによる権利告知がない。よって、真意による承諾があったとは認められず、無令状の強制の捜索という重大な違法がある手続を直接利用した差押えには違法性が承継され、覚せい剤dは証拠排除することが相当である。

 

コメント

『令状に関する理論と実務Ⅱ』p.84からp.98読みました。令状の効力が及ぶ範囲をできる限り特定しなければならないというときの、特定の程度や、特定の要請を後退させるのはなにか(捜査の秘密、被処分者に令状を呈示することで被疑者等の名誉が害されるおそれ、捜査の目的など)などが特に勉強になりました。

*1:『現代令状実務25講』p.66高田昭正執筆部分参照

第3章 逮捕・勾留(1)

重要論点

設問についての問い

1.刑訴法212条1項の現行犯逮捕の要件は、犯罪が終わってから逮捕の着手まで30から40分以内で時間的に接着しており、かつ客観的外部的状況から犯人が逮捕者自身において直接覚知できるため誤認逮捕のおそれが少ないことである。これを本件についてみると、時間的に接着していないから現行犯逮捕の要件を具備していない。

そこで、2項の準現行犯逮捕の要件を具備しているかが問題となる。Xは贓物であるビール350ml缶1つと漫画雑誌1冊を所持しているから2号に該当する。また、「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるとき」とは、被害者等の供述も含めた総合判断により犯行と犯人の結びつきが誤認逮捕のおそれが少ないと認められる程度に明白であり、かつ逮捕の着手まで2時間程度以内で時間的に接着し、かつ犯人の移動手段等から判断して逮捕に着手した場所が犯行現場から誤認逮捕のおそれが少ないと認められる程度に場所的に接着していることである。

これを本件についてみると、犯行から逮捕までぎりぎり2時間程度以内ということができるから、時間的接着性が認められる。また、贓物と同じ物を所持しているだけでなく、投げやりになったXが自らこの二点を手提げカバンから出したこと、W1とW2が警察官に事前に述べた青あざや服装といった身体的特徴と合致していること、W1とW2が犯人に間違いないと述べていることを総合すると、犯行と犯人の結びつきが明白であると認められる。また、Xが2時間15分後警察官Lにより発見された場所は1km先に満たないから、Xが徒歩で移動したことを考慮しても場所的接着性が認められる。

これに対して、弁護人としては、ビール350ml缶1つと漫画雑誌1冊というありふれていて贓物そのものであると物じたいからは特定できない物を所持していたこと以外で、犯行と犯人の結びつきの明白性の判断の資料となるものは結局はW1とW2の供述のみであって、誤認逮捕のおそれが少ないと認められる程度の明白性は認められない、目撃者の供述について逮捕の現場で信用性を正確に吟味することは不可能である*1と反論することが考えられる。また、田宮刑訴p.77によれば、数時間経過した場合には「間がない」には当たらないから違法な逮捕であるとか、本件のように時間的接着性がぎりぎりの事案では他の事情による明白性の基礎づけがかなり強く要求されるはずだと反論することが考えられる。

 2.刑訴法60条1項は、明文では勾留の相当性を要件として定めていないが、比例原則に適合するように解釈すれば、相当性は勾留の要件であると解される。そして違法な逮捕を甘受させた者にさらに後続の強制処分を甘受させることは相当性を欠く*2から、勾留請求は却下されるべきである。なお、相当性が勾留の要件でないとの解釈によっても、逮捕前置主義を定める204条1項を根拠に勾留請求は却下される。

3.刑訴法429条1項2号による勾留決定に対する準抗告をするか、刑訴法88条による保釈請求をすることが考えられる。

4.刑訴法210条は「直ちに」と定めているから、逮捕後7時間以上経過したこの令状請求は違法である。

5.既に勾留されているから、刑訴法429条1項2号の準抗告をする。

刑訴法199条にいう通常逮捕をするには、嫌疑が「相当な理由」といえる程度にあり(1項)、かつ「明らかに逮捕の必要がない」とはいえない(2項)程度に逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれがあり、かつ明文の定めはないが身体拘束に相当性があり比例原則に違反しないことが要件となる。

これを本件についてみると、身体拘束は極めて重要な利益の侵害であるところ、Xは一度は緊急逮捕令状請求のために身体拘束を受けているのだから、なんら逮捕の基礎となる事情に変更のない本件において、Xを通常逮捕してさらなる身体拘束を行うことは、相当性を欠く比例原則違反であり、違法である。仮に直ちに違法とまではいえないとしても、従前の身体拘束期間を考慮したうえで自由権規約9条3項(裁判官の面前に速やかに連れて行かれる権利)を間接適用して比例原則を適用すべきであって、たとえば勾留請求まで72時間をぎりぎり超えない時間の身体拘束をすれば形式的に刑訴法203条1項並びに205条1項及び2項に違反していなかったとしても、相当性を欠く長期の身体拘束として比例原則違反の違法である。

先行する逮捕手続が違法であるとき、さらに後続の身体拘束手続を甘受させることは相当性を欠き、本件勾留は比例原則違反の違法である。(あるいは逮捕前置主義を定める刑訴法204条1項違反である。)

6.警察官らが「直ちに」といえる期間を超過してしまったのは、Xが自発的に始めた弁解を録取していたためであって、警察官に身体拘束期間の制限を潜脱する意図はなかったと主張することが考えられる。これに対して、弁護人は、緊急逮捕の要件である嫌疑は、緊急逮捕を執行する時点での嫌疑であって、緊急逮捕後に録取した供述は疎明資料とならないとか、警察官に取調べのための持ち時間を稼ぐ意図があったと主張することが考えられる。

7.逮捕前置主義を定める刑訴法204条1項に違反する。当初の事件による勾留と別事件による逮捕・勾留が重なることとなる(いわゆる二重勾留)が、別の事件について逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれが認められないのが通常と考えるべきである*3

8.刑訴法208条1項の反対解釈により、起訴後、勾留中の被疑者は、当然に裁判所の職権による被告人勾留に移行する。なお、白取刑訴によれば、この際に勾留の必要性が低下していないか判断するため勾留質問をすべきである。

 

発展問題

1.出頭の求めについては刑訴法199条1項但書きに定めがあるが、これを捜査段階における出頭確保のための逮捕を認めた規定と解する見解がある。しかし、出頭確保それ自体を理由とする逮捕をみとめることは取調べ目的の逮捕を認めるに等しいからこの見解は採用できない。

もっとも、出頭要請を何度しても応じない事実は逃亡のおそれは推認させるから、適法に逮捕できる場合があるとする見解がある(判例もこのような推認を認める)。これによれば、裁判官は逮捕令状を発布すべきである。しかし、不出頭が重なるから逃亡のおそれがあるとする経験則があるかは疑わしいし、出頭を拒むことができると定める198条と整合しない。裁判官は、不出頭の事実以外から逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれを判断すべきである。

2.逮捕という比較的短期の身体拘束が前置されているにもかかわらず、さらに身体拘束をするということは、勾留の必要及びそれに応じた身体拘束の相当性が厳しく判断される。

これに対して、二度の司法審査により身体拘束について慎重を期しているとする見解によれば、勾留状発布においては、比例原則違反の有無ではなく、嫌疑の有無がより厳しく判断されそうである。しかし、この見解は199条1項の通常逮捕の「相当な理由」という文言と60条1項の勾留の「相当な理由」という文言に異なる意味をあえて読み込むほどの説得的な理由づけとはいえないから採用できない。

3.

 

コメント けっこう分からない。

*1:中島宏「現行犯逮捕」法教2019.1p.15

*2:中川『刑事訴訟法の基礎』p.60

*3:中川p.78

第2章 任意同行(逮捕との区別)

設問についての問い

1.「留め置き」とは、不審事由のある者であって被疑者的立場にあるものを停止させ、それがある程度の時間に及ぶ行政警察活動及び被疑者の移動の自由を制限する司法警察活動であって、警察官としては例えば令状発布までの時間稼ぎをする狙いがある。

2.不審事由のある者が自動車に乗っている場合、乗っていない場合と比べて、合理的な理由なく逃走を始めたときに停止させることが困難だから、エンジンキーを抜き取り自動車の運転を阻止しておく必要性・緊急性がある。これに対して、「停止」は質問実施のための説得を目的としているから、エンジンキーを抜き取る方法による停止に必要性が認められる余地はないという批判もあり得る。しかし、不審事由の解明が「質問」及び職務質問に密接に関連する「停止」その他の作用の目的であって、文理上も説得が目的であると解する理由はない。本件において、エンジンキーを抜き取る方法には必要性が認められると解すべきである。

本件の留め置きは無令状の実質的逮捕に当たるか。確かに、X及びY子の意思が制圧されているが、制約されているのは単に移動の自由であって、車内における行動の自由や携帯電話を用いた外部との交通の自由は制約されていない。また、留め置きの場所は捜査機関の施設外である。よって、重要利益侵害処分には当たらないから、実質的逮捕その他の強制の処分には当たらない。

もっとも、任意処分も捜査比例の原則に違反してはならない。停止が長時間に及んだ場合、その間に被疑者の嫌疑が高まり司法警察活動に移行したとき、許される移動の自由の制約の程度が、例えば令状発布までの身柄の確保など、説得の手段の限度に必ずしも限られないことは、刑訴法の規定が任意捜査の目的を限定していないことから肯定できる。ただ、停止が長時間に及んだことが捜査比例の原則の相当性の判断において違法を導く事実となる。

3.緊急逮捕の要件が具備する程度の濃厚な嫌疑があることは、司法警察活動としての留め置きの必要性・緊急性の事実となる。

4.X及びY子らを引きずり出し採尿に適する場所に連行するという警察官らの行為は、強制採尿に当然に付随し、令状の効力の及ぶ強制の処分である。しかし、警察官らによる強制の連行に先立って、XとY子は令状を見せられていないから、警察官らの行為は刑訴法110条に違反する。仮に、令状執行着手前に令状を見せられないことが、手続について被疑者の協力を期待できずやむをえなかったとしても、令状の存在を知ることは、被疑者にとって強制の連行が形式的には法に則っているかを確認するために必要であり、逆に令状がなければ強制の連行に抵抗し拒絶し得ることとなるのであって、警察官らが令状の存在を直ちに伝えなかったことは適正手続を保障する憲法31条に違反する重大な違法である。また、令状の存在のみならず内容を知ることは、違法手続があったとき被疑者がその場で直ちに異議を述べるために必要だから、令状を呈示できる状況になったときにできる限り速やかに令状を呈示しなかったことは憲法31条をうけた刑訴法110条に違反する重大な違法である。

5.警察官らは、強制の連行に先立って令状を窓に貼りつけている。「示さなければならない」という用語を文理解釈すれば、警察官らは刑訴法110条に違反していない。このように解釈したとしても警察官らは令状の存在と内容をXとY子に告知する機会を十分に与えているのだから、適正手続を保障する憲法31条に適合する解釈である。令状を示したとはいえないとしても、XとY子の態度は事前に令状の呈示をうける権利を黙示的に放棄するものといえるから、警察官らの手続は適法である。

6.令状を呈示することでY子の意思を制圧している。また、採尿を命じることは身体の自由の侵害及び羞恥感情の著しい侵害という重要利益侵害に当たる。よって強制処分に当たる。

7.X及びY子の違法な強制連行と採尿とは、採尿による証拠の収集という同一目的の手続であり、かつ、採尿は強制連行を直接に利用して行われた手続である。このように違法手続と直接の証拠獲得手続に密接な関連性がある場合、直接の証拠獲得手続である採尿手続に違法性が承継される。

覚せい罪取締法19条違反の罪は、違法捜査の抑止や司法の廉潔性といった要請よりも刑罰権の発動を優先させるべきほど重大な事案ではないから、本件尿の鑑定書は、違法収集証拠として排除することが相当である。

8.強制連行が仮に違法であったとしても、警察官らは令状呈示を試み、採尿の段階では令状を呈示していることから、警察官らが法軽視の態度から違法手続を行ったわけではないと認められる。また、覚醒剤の使用という犯罪の性質上、尿の鑑定書は犯罪の立証に不可欠である。したがって、違法捜査抑止の見地から検討しても、証拠を排除すべき程重大な違法ではなく、証拠能力を認めるべきである。

 

コメント 職務質問については大谷「職務質問における停止の限界」を参考にし、刑訴法110条の趣旨については後藤『捜査法の論理』所収の論文によりました。渡辺咲子説では、令状呈示を受ける権利を放棄できるようですが、本当なのでしょうか???(疑問は尽きない)

詐欺罪の解釈

学部時代ゼミ行政法だったので、行政刑法の解釈とか罪刑法定主義とかの関連でしか刑法を勉強したことがないのですが、少ない資料で自分なりに勉強したことをまとめてみます。

コメントをいただけるとうれしいです。

 

まず、詐欺罪の構成要件をすべてすらすら言えるようにしました。たぶんこれが重要なことは誰もが認めるのではないでしょうか。

1欺く行為があり、その結果として、2被害者の錯誤があり、錯誤に基づいて、3被害者の錯誤に陥った者の財産的処分行為があり、その結果として(直接性)、4行為者又は第三者において財物の占有又は財産上の利益が取得されること、という因果関係のある一連の流れです。

 

更に5つめの書かれざる構成要件を認めるかについては議論があります。

1.「個別財産の喪失があれば、それだけで損害があった」とする形式的個別財産説によれば、電気あんま器の事例で問題なく詐欺罪の成立を認めることができます。

2.しかし、取引上不当な行為があった場合、個別法による規制、場合によっては罰則を伴う規制がされるかは格別、詐欺罪に当たるのは一定の限定された場合のはずです。詐欺罪の保護法益は、信義誠実ではなく財産だからです。そこで、実質的個別財産説は、書かれざる構成要件として、「反対給付による利得を加味してもなお財産的損害が実質的にあること」を加えます。実質的個別財産説は、「社会通念上別個の支払いといい得る程度の期間支払いの時期を早めた」場合には詐欺罪が成立するとした最判H13.7.19刑集55巻5号371頁(判例百選49事件樋口亮介解説)を説明しやすい点でも魅力的です。

3.井田各論は、書かれざる構成要件要素を加える実質的個別財産説を批判しつつ、近年の判例に整合的な見解をとっています。「欺く行為」を財産処分の基礎となる重要な事項について欺く行為と縮小解釈するものです。

4.ここで、「重要な事項」の当てはめが分からないし詐欺罪による社会的法益の保護を事実上認めてしまっているから井田説は使えないと思っていたのですが、刑事訴訟法学者の白取祐司先生が放送大学の「刑事法」第7回で、「欺く行為」とくに重要事項の当てはめにあたって将来の経営上の利益をしっかり考慮することで財産犯としての解釈の枠におさめることを提案されていて参考になりました。この他に、保護法益を財産的処分の自由と捉え重要事項説を導く見解(足立友子)もあるようです。

 

この他に論点でおさえたものは、

・利益の移転性の要否

・直接性

・処分意思不要説批判の論証(判例百選52事件高山加奈子解説)

・錯誤に陥った者と被害者が分離している場合(三角詐欺)に被欺罔者が被害者側の陣営であれば詐欺罪が成立する(中森説)か窃盗罪の間接正犯と区別するために「錯誤に陥った者において被害者のためにその財産を処分し得る地位又は権能(最判S45.3.26刑集24巻3号55頁)」が必要か

・「偽りその他不正の行為」を構成要件とする罰則との罪数関係

 

最後にまとめると、白取『刑事法』はとても参考になりました。百選の樋口解説と高山解説は読んで知識が深まったと思います。逆に、山口各論と井田各論は分かりづらくあまり参考になりませんでした。

刑法のことは全然分からないので、批判的なものでも、これを読んでないのかよ的なツッコミでも、刑法が好きな方からなにかしらコメントを頂けるとうれしいです。

Ⅱ-7

(1)(a)YとMは2003年3月、MがYのために甲建物を管理する寄託契約を締結している。そこで、Mは民法655条により準用された650条1項により、工事代金600万円は甲建物の保管に必要と認めるべき費用であったとしてその償還を請求することが考えられる。

(b)(ア)Yは反論として、通常の修繕費用はともかく、耐震壁に補強する費用及び高価な防犯ガラスにする費用は必要と認めるべき費用に当たらないと否認することが考えられる。

(a)Mは予備的に、民法697条1項に基づき、1.Yのためにする意思をもって、2.耐震壁の補強の費用と防犯ガラスの設置の費用という有益な費用を支出したこととその額を主張立証して、寄託契約に基づく費用の償還が認められなかった額を請求することが考えられる。

(b)(ア)Yは抗弁として、耐震壁や防犯ガラスの設置はYの意思に反することが明らかであると主張することが考えられるが、Mは工事前にYに連絡をとろうとしていたことからYの意思に反することが明らかとまでは認められない。

そこで予備的に、本件修繕はMY間の甲建物寄託契約上の善管注意義務に基づくものであって、事務管理は成立しないと主張することが考えられる。Mが義務なく事務を処理したことの主張立証責任を負わないのは、ないことの証明は困難であり、また、一方で契約に基づき事務処理費用を請求する者に、他方で予備的請求においては契約が成立していないことの証明を求めるのは不自然だからである。Mが義務がないことの主張責任を負うと解されるとしても、Yに義務の存在の証明責任を負わせるべきである。これを本件についてみると、割れたガラスの交換は寄託契約上の義務に基づくものであるから、防犯ガラスを用いることで追加の費用がかかったとしてもMの請求は認められない。他方で耐震壁の設置は寄託契約上の義務を超えており、義務を超えた場合も「義務なく」に当たるから、Mは費用を請求できる。

(2)(a)Yの無権代理人MとXとの2003年1月30日請負契約が成立し、2月5日YはMへのメールでMの無権代理行為を追認したとして、工事代金の支払いを請求することが考えられる。

(2)(a)Mが無資力の場合には、XはXY間請負契約が認められない場合にそなえて予備的に、甲建物に係る費用利得の不当利得返還請求として、工事の実費を請求することが考えられる。1.Xは修繕の費用を支出している。2.Mが無資力であり、かつ、YM間の寄託契約は無償であって本件修繕に関して対価関係がないことから、利得の保持に法律上の原因がないと認められる。費用利得の償還請求の効果は、支出額のうち利得者の主観的な財産計画に照らして価値を実現できる限度での返還であると解される。費用利得はいわば事務管理の弱められた形態であり、また、損失者から利得者への取引強制につながる危険性をはらんでいるからである。よって、工事の実費を立証しても必ずしも満額の請求が認められるとは限らないが、地震後で、しかも空き巣被害急増の事実及び甲建物の耐震補強が十分でなかった事実が認められ、Yに金銭的な余裕のある本件事情のもとでは、満額の請求を認めるべきである。

 

コメント ぜんぜん分からない。民法総合事例演習を解いた人は全員答案を晒してほしい。