予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

第24章 自白の信用性評価と補強法則

設例についての問い

1.2.刑訴法319条2項は、自白は過度に信用されやすい証拠であることを理由に、また、自白に偏重した捜査を防止するために定められた規定である。共犯者の自白は、責任転嫁や引っ張り込みのおそれがあり、ほかにも真犯人が真実の体験に嘘を織り込んだ供述をしたために迫真性をもってしまうおそれ等があるから、刑訴法319条2項の趣旨からすると被告人本人の自白と共犯者の自白を区別する理由はない*1。よって、刑訴法319条2項を共犯者の自白に類推適用すべきである。よって、Y・Zの供述調書を補強証拠となり得ない。

また、自白の補強証拠は、自白から独立したとのでなければならないから、被告人及び共犯者の供述はいくらあっても原則として補強証拠にはならない。本件メモの記載はX・Y・Zの供述に由来するとされ、その記載内容をなす欺く行為の計画を証明することで本件事故が通常の事故というのは見せかけだったことを推認させるために用いられるところ、供述証拠だから補強証拠とならないようにも思える。しかし、X・Y・Zらが嫌疑を受ける前に捜査と無関係に作成されたメモであって、実質的に自白から独立しているから例外的に補強証拠となり得る。なお、最決H32.11.2刑集11巻12号3047頁は、323条2号の書面という信用性が高く特別な客観性を備え、したがって自白から独立した供述が記載された書面が補強証拠適格ありとされた点で本件と異なる*2との反論が考えられる。

3.共犯者間相互の供述は、捜査機関の見立てにしたがい矛盾ない自白をするよう誘導・強要されたものであるおそれがあるから、これを防止するために共犯者の自白に319条2項が類推適用され、共犯者間相互の供述のみによって有罪とされることはないと解すべきである。

これに対して、憲法38条2項及び刑訴法319条1項は虚偽自白を排除するために捜査機関を規制する規定であるとの立場から、刑訴法319条2項は証明力についての特則であって裁判所が自白を過度に信用することがないよう設けられた規定であるのに、本来319条1項の適用により証拠能力が否定されれば足りる自白の強要等を問題とするのは誤りであり、したがって、共犯者間相互の供述によって有罪としてもよいとする見解がある。しかしこの見解は、虚偽排除説については争いがあるだけでなく、自白が強要されたものであるかを問題にするだけで、強要以外の方法によるものも含めいかに自白偏重の不当な捜査を防止するかという観点を欠くから採用できない。

4.

 

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ちぐはぐになってしまった。

*1:中川『刑事訴訟法の基本』p.243

*2:葛野ほか編『判例学習・刑事訴訟法 2版』p.288斎藤司執筆部分

第18章 証拠の関連性

設例についての問い

(a)鉄道雑誌・鉄道模型雑誌1200冊の目録は、鉄道関係物品と鉄道模型が窃取された本件について、被告人は鉄道に興味があって犯行の動機があり、よって被告人の犯行であると推論させるものである。被告人が犯人である蓋然性を高め、かつ被告人が起訴された19件のうち16件の犯行を否認している本件訴訟の帰すうに影響を与えるから、自然的関連性があり証拠能力がある。

(b)精神科医の鑑定書は、それが犯行の動機が存在する蓋然性を高めるものであれば、(a)と同様に自然的関連性がある。当該精神科医の鑑定が、その心理テストや問診の科学的原理が理論的正確性を有し、これを実施した精神科医が心理テストや問診を実施する技術を習得しており、科学的に信頼できる方法により行われたとき、自然的関連性がある。

自然的関連性があっても、証拠から立証趣旨となる事実への推論過程に、被告人が悪性格であることが介在するとき、不当な偏見による誤った事実認定のおそれや争点拡散のおそれがある。よって、そのような証拠は法律的関連性がないものとして証拠能力がない。当該鑑定書は、被告人の悪性格を推論過程に介在させるものであって、法律的関連性がなく証拠能力がない。

(c)前科事実の存在を証明する証拠は、それが被告人の悪性格を推論させ、不当な偏見や争点拡散の弊害があるから、原則として法律的関連性がなく証拠能力がない。しかし、本件では立証趣旨が同種の前科事実から推論される犯人性であって、被告人の悪性格ではないから、例外的に証拠として許容されるかが問題となる。

前科事実のみから犯人性を推論させようとするときには、指紋や署名と同程度の証拠価値がなければ、前述の弊害との衡量により、法律的関連性がなく証拠能力がない。鉄道関係物品ばかりが窃取される事件は、特徴的ではあるがそのことだけで犯人性が証明できるほどの顕著な特徴ではない。よって、当該前刑判決書謄本及び供述調書は証拠能力がない。

(d)併合審理中の3件の住居侵入・窃盗事件に関する自白調書は、被告人が否認している16件の事件との関係では、他の犯罪行為が存在する証拠であって、上述の弊害がある。しかし、本件調書は他の犯罪行為が存在する証拠であることに加えて、時間的に近接した事件であったことの証拠でもあるから、あいまって例外的に証拠として許容されないかが問題となる。

他の犯罪行為の存在が(合理的な疑いを超えることまでは求められないが)十分に証明されたとき、1立証目的の重要性、2時間的近接の程度、3事件の類似性を基準として、上述弊害と衡量してもなお法律的関連性があるかが判断される。これを本件についてみると、当該自白調書は3件の事件の十分な証拠である。また、1否認事件において犯人性の立証は重要であり、2否認事件が連続して行われていた時期と重複していて、3同じ地域で起きた鉄道関係物品を含む窃盗事件という点で類似しているから、法律的関連性があり証拠能力がある。

 

コメント わからなかった。ましてや連邦証拠規則なんてわからない。。。

第9章 捜査手段としての会話盗聴

設例についての問い

1.2.そもそも、刑訴法197条1項にいう「強制の処分」とは、単に被処分者の意思に反する捜査手段ではなく、そのなかでも、身体(憲法34条)、住居又は財産(憲法35条)若しくはこれらに匹敵する憲法的価値のある重要な利益を侵害する類型の捜査手段をいうと解すべきである。

公道や公園その他の公共のスペースでの会話は、それを国家機関がひそかに立ち聞きし、又は録音することが憲法13条の保障するプライバシー権の制約に当たるが、会話をしている人が有しているのはプライバシーの主観的な期待に過ぎず、住居での会話に対するプライバシーの合理的期待が侵害される場合と比較すると権利制約の程度は小さい。したがって、公共スペースでの会話の立ち聞き又は録音は任意捜査であって、比例原則に違反しなければ許容される。

これに対して、住居その他の私的領域での会話をひそかに録音することは、集音器を用いるか否かに関わらず、会話の自由に萎縮効果を与えプライバシーの合理的期待を侵害するから重要利益侵害処分に当たる。また、会話を傍受される者からすれば、合理的に推認される個人の意思に反する。したがって、私的領域での会話をひそかに録音する捜査手段は強制処分に当たる。

3.会話を録音する捜査手段は、五感の作用により対象を認識し、又はこれを保全する検証としての性質を有しているとして、検証令状の発布を請求することが考えられる。

しかし、私的領域での会話の録音は、その場所で行われる会話を継続的に把握する捜査手段であって、令状審査によっては被疑事実と無関係な者や無関係な内容の会話の過剰な把握を抑制できないおそれがあるから憲法35条の「各別の令状」の要件に該当するかが問題となる。これに対しては、例えば振り込め詐欺の拠点など検証の場所を特定したうえで、それでも対象外と思料される会話が録音されてしまうことは避けられないから対象外の会話の録音は刑事訴訟法129条の「必要な処分」として行うことができることを前提に、当該必要な処分により得た録音データは速やかに削除する条件を付することで、刑訴法の定める検証の手続によっても令状主義の要請を満たす場合があり得るとする反論が考えられる。もっとも、この見解によっても、少なくとも現行刑訴法によれば、本件のような場所での録音は検証令状の発布を請求しても却下される。

仮に令状主義に違反しないとしても、法律の定める適正手続を保障する憲法31条との関係が問題となる。法律の定める「検証」の手続では、被処分者が不在である場合に準じて刑訴法222条1項による114条2項の準用がされて110条の準用がなく、処分の通知が事後にもないため不服申立ての機会が担保されていない。被処分者に対する令状の事前呈示がないことはやむをえない例外だとしても不服申立ての機会は担保されるべきであって、検証令状による私的領域の会話傍受は憲法31条に違反する適用違憲と解すべきであり、令状請求は却下される。

 

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新時代の刑事司法制度特別部会 第1作業分科会(第8回)

http://www.moj.go.jp/content/000118694.pdf

を読みました。

強制処分の定義の論証をどうすべきかまだ迷っています。

第6章 接見交通権と接見指定

設例についての問い

1.

2.刑訴法39条3項は、検察官は捜査のために必要があるときは接見指定をすることができる旨定めているところ、「捜査のために必要があるとき」の意義が問題となる。憲法34条は、国家による被疑者の身柄の拘束を認めたことと引換えに、弁護人を付すことにより被疑者が外界との連絡を遮断されないようにする趣旨であって、憲法34条は接見交通権を保障していると解される*1。したがって、憲法34条が保障する接見交通権は絶対的に保障された権利であって、刑訴法39条3項にいう「捜査のために必要があるとき」とは、現に実況見分に立ち会っているときその他の接見が物理的に不能なときをいうものと限定解釈すべきである。

4月4日Pの接見拒否は、間近な捜査の予定を理由とするものであって、刑訴法39条3項にいう「捜査のために必要があるとき」の要件に該当せず、違法な接見妨害である。

憲法34条が保障しているのは単に弁護人を依頼する権利であって、接見交通権は憲法上の権利である弁護人依頼権に由来するにとどまり、憲法が前提とする刑罰権の発動及びその発動のための捜査権の行使との間で合理的な調整がなされる相対的な権利であって、捜査の間近な予定があるときは接見指定により接見交通権を制約することができると解されるとの見解も考えられる。そうだとしても、Xは3月30日に弁護人に助言を受けたときから取調べに対して黙秘を続け取調べに応じない意思を明らかにしていたのに、PはXに取調べに応じるよう求め続けている。身柄拘束状態を利用して意思を制圧し、取調べに応じることを強要することは、プライバシーの権利に対する重要な介入であって*2、個人の意思を制圧し重要な利益を侵害する強制処分に当たる。よって、強制処分法定主義に違反する違法な手続である。刑訴法198条1項但書きを反対解釈して勾留中の被疑者の取調受忍義務を肯定する見解もあるが、どのような法の趣旨から刑訴法198条1項但書きを反対解釈すべきことが導かれるのか理由づけがないから採用できない。

仮に取調受忍義務があると解しても、取調べ前に接見を行っても捜査に顕著な支障が生じないのであれば「捜査のために必要があるとき」に該当しないから、違法な接見拒否となる。さらに、接見指定が比例原則に違反していないかが問題となる。取調べを長時間継続して行うことはそもそも必要性がなく、Pが取調べを短時間におさめる配慮をしなかったことは憲法の保障に由来する接見交通権の制約として相当性を欠くから、違法な接見指定である。

3.4.憲法38条2項及び刑訴法319条の列挙する「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」は自白採取方法が違法な自白又は違法な身体拘束中の自白の例示と考えられる。これを本件についてみると、勾留は憲法34条による接見交通権の保障と引換えに適法とされるところ、4月1日朝に接見交通権が違法に侵害された後の勾留は、違法な勾留であって、4月5日付け自白調書記載の自白は、違法な身体拘束中の自白であるから、当該自白調書は証拠排除すべきである。

接見交通権の侵害があったからといって勾留が違法となることはない(最決H1.1.23判時1301号155頁参照)と解したとしても、「強制」すなわち供述の自由の侵害により獲得された自白*3又はその疑いのある自白であるならば、4月5日付け自白調書は証拠排除すべきである。確かに、違法な接見指定の後に、一度弁護人と接見する機会があったのだから、接見拒否により外界との接触を閉ざされたことの影響がこのとき遮断され、自白の任意性に疑いがないようにも思える(前述最決H1.1.23参照)。しかし、連日の身体拘束下の取調べによりXの抵抗する意思が弱まっていたと推認され、取調べの態様もXが黙秘を続けていたにもかかわらず継続して行われたものであって心理的圧迫が加わっており、前日に接見交通権の侵害があったうえに、接見の時間は30分のみで短く心理的強制の危険性を排除するものではない。これらの事情との因果関係が疑われる4月5日付け自白調書記載の自白は、強制による自白又は任意にされたものでない疑いのある自白に当たるから証拠排除すべきである。

5.別件捜査のための接見指定は、当事者主義的手続において検察官と被疑者及び弁護人とが対等であるべきことに反して「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものであって、刑訴法39条3項但書きに該当するから、違法である。

6.接見交通権は弁護人の固有権であり、また、接見内容は防御情報等の秘密を含み得ることから、秘密交通権は被疑者のみの意思によっては放棄できない権利であって、弁護人の事前の同意がなければ被疑者から接見内容を聴取することができないと解される*4。これを本件についてみると、Kは弁護人の事前の同意を得ていないから不適切な取調べである。

 

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不任意の疑いのある自白の論証の書き方がよく分からない

 

*1:村岡啓一1997「34条」『憲法的刑事手続』p.287

*2:後藤昭『捜査法の論理』p.163

*3:青木孝之2007「自白排除法則再考」

*4:葛野2012『未決拘禁法と人権』p.333

第8章 捜索・差押え(2)

設例についての問い

1.無令状の捜索・差押えの根拠規定としては刑訴法220条1項2号がある。しかし、Xは連行されることで「逮捕の現場」から離れているからこの規定を根拠に捜索・差押えをすることはできない。これに対して、Xの身体及び所持品には証拠の存在する蓋然性が「逮捕の現場」と同程度にあり、「逮捕の現場」と同視して捜索・差押えを認めるべきとする見解があるが、憲法31条を根拠として、国会の制定する法律による民主的統制を強制処分に及ぼす強制処分法定主義に違反する類推解釈であって採用できない。

けっきょく、Xの注射器を差押えた手続は違法というべきである。

2.Xの居宅に立入り、捜索する時にXが居合わせてしかもXが立入り・捜索に反対する意思を表示しなかったということは、本件捜索は個人の意思を制圧するものではなく、任意の手続として違法はないと主張することが考えられる。

しかし、逮捕された者に付き添うことは逮捕の本来的効力であるとしても、憲法35条は無令状で侵入を受けることのない権利を保障していることから、Kらの立入りは違法ではないかが問題となる。Xは自発的に自宅に戻りたいと申出てプライバシーの権利を放棄しているのだから、憲法35条の保障は及ばず、適法な立入りである。立入りの際に一律に権利告知が必要とまで解する根拠はない。

また、憲法35条は無令状で捜索を受けることのない権利を保障していることから、Kらの捜索は違法ではないかが問題となる。これについて、捜索を任意に承諾することは通常想定できないとして承諾捜索にも令状を必要とする見解もある。しかし、場所のプライバシーすなわち管理権を有する者が真意によりその権利を放棄した場合には憲法35条の保障が及ばず、適法な承諾捜索となると解すべきである。これを本件についてみると、Xは黙示の承諾によりプライバシーを放棄していたと認めるべきかが問題となる。憲法上の権利の放棄であるから承諾が真意によるものといえるかは慎重に判断すべきであり、(1)捜索の行われる意味とこれを拒絶できる立場にあることを十分に理解しつつ、(2)任意に承諾したものであるか、により判断すべきである。

これを本件についてみると、Kらによる捜索を拒絶し得ることの告知がなく(1)捜索を拒絶できる立場にあることを理解していたとは認められない。また、任意性の判断にあたって(1)のような特別の要件は不要であるとしても、Xは一方的に捜索されることをせいぜいあきらめて黙っていたいただけであって(2)任意の承諾があったとは認められない。KらのX居宅における捜索手続は、憲法35条に違反する違法な手続である。

3.相当説によれば、令状を請求すれば許されるであろう被疑事実と関連性のある範囲で差押えが認められる。

4.

5.

6.明文の規定によれば、刑訴法220条1項2号の「逮捕の現場」に当たらないから違法のようにも思える。しかし、逮捕を完遂するために凶器・逃走具を保管する措置は逮捕の効力として本来的に許されるのであって、凶器となり得るアイスピックを逮捕者の身体の安全のために取り上げることは適法な手続というべきである。

7.KらがXをX居宅に一緒に行くように誘導したのは、その後に逮捕にともなう無令状の捜索・差押えを行い令状主義を潜脱すること目的としたものであって、任意捜査として必要性・緊急性を欠き、比例原則に違反する重大な違法がある。これを直接利用した差押えには違法性が承継される。

第7章 捜索・差押え(1)

設問についての問い

1.判例によれば、憲法35条は捜索する場所及び刑訴法上の用語でいえば差押えるべき物を明示すべきことを要求にしているにとどまり、刑訴法219条1項により令状に罪名を記載するとき、適用法条まで示さなくてもよい。

判例によれば、捜索すべき場所は、合理的に解釈してその場所を特定し得る程度に特定すべきであり、それで足りる。なお、本件令状には、X方に至るまでの共用部分に対する居住者全員の管理権が、立入りにより侵害されるのに明示されていないことが問題となるが、共用部分への立入りがX方捜索に必要な限度でなされることは令状審査のときに織り込み済みであって、共用部分への立入りには令状の効力が及ぶと解すべきである。

判例によれば、「その他、本件に関係ある物、文書」のような概括的記載も、その前の部分で列挙された物件に準ずる物、文書をいうと解釈すれば適法である。

2.室内にあるパソコンのハードディスクは令状記載の差押えるべき物に含まれるから、222条1項、110条の2第1号によりその差押えに代わる処分をすることができる。

3.4.5.捜索差押え許可状の効力は、捜索中に捜索場所に持ち込まれた物にも及び得る。裁判官は令状の有効期間内に捜索場所に差押えるべき物が存在する蓋然性を審査したのであって、差押えるべきものがいつから捜索場所に存在するかを問題としていないからである。

配達人Kが所持する荷物を開封覚せい剤bを差押えたことは適法か。仮にXが荷物を受領した等の事情があれば、荷物にはXの場所に対するプライバシーすなわち管理権が及び、荷物を必要な処分として開封し、覚せい剤bを適法に差押えることができる。しかし、本件の事情のもとでは荷物にはいまだ運送会社の占有並びに荷送人のプライバシーへの合理的期待及び貨物処分権が及んでいたのであって、令状の効力が及ばないから、覚せい剤bの差押えは違法である。

6.仮に違法な差押えであったとしてもXの権利利益を侵害する違法ではないから、証拠排除の申立適格はないと反論することが考えられる。しかし、違法収集証拠排除法則の根拠を憲法や刑訴法に求める法規範説にたつのであればともかく、違法捜査抑止や司法の廉潔性に求めるのであれば、客観法的に違法でさえあれば証拠排除を求めることができると解される。

7.憲法35条1項並びにこれを受けた刑訴法218条1項及び219条1項は一般探索を禁止し司法的に抑制する趣旨から令状による差押えるべき物の明示を要求しているところ、令状記載の物であっても、専ら別罪の証拠として利用する目的で差押えることは禁止されていると解される。メモcを差押えたとき、警察官らはV殺害の嫌疑があることを知っていたのであって、専ら別罪の証拠として利用する意図を有していたことが推認される。

8.メモcはXらの覚せい剤取引の事業の実態という背景事実を知るために必要であって、本罪とされた覚せい剤取締法違反の被疑事実と関連があり、専ら別罪の証拠として利用する意図があったとまでいう証拠はない。

9.10.憲法35条は無令状で捜索を受けることのない権利を保障しているが、捜索を受ける者が真意によりその権利を放棄し捜索を承諾した場合には、憲法35条の保障が及ばない任意捜査となると解される。憲法上の権利の放棄であるから、真意による承諾があったといえるかは慎重に判断すべきであって、捜索の行われる意味とこれを拒絶できる立場にあることを十分に理解したうえで、捜索に任意に承諾することが必要である。しかし本件では、令状による捜索に引き続いて無令状の捜索が行われ、令状による捜索と混同される危険がある*1にもかかわらず、警察官らによる権利告知がない。よって、真意による承諾があったとは認められず、無令状の強制の捜索という重大な違法がある手続を直接利用した差押えには違法性が承継され、覚せい剤dは証拠排除することが相当である。

 

コメント

『令状に関する理論と実務Ⅱ』p.84からp.98読みました。令状の効力が及ぶ範囲をできる限り特定しなければならないというときの、特定の程度や、特定の要請を後退させるのはなにか(捜査の秘密、被処分者に令状を呈示することで被疑者等の名誉が害されるおそれ、捜査の目的など)などが特に勉強になりました。

*1:『現代令状実務25講』p.66高田昭正執筆部分参照

第3章 逮捕・勾留(1)

重要論点

設問についての問い

1.刑訴法212条1項の現行犯逮捕の要件は、犯罪が終わってから逮捕の着手まで30から40分以内で時間的に接着しており、かつ客観的外部的状況から犯人が逮捕者自身において直接覚知できるため誤認逮捕のおそれが少ないことである。これを本件についてみると、時間的に接着していないから現行犯逮捕の要件を具備していない。

そこで、2項の準現行犯逮捕の要件を具備しているかが問題となる。Xは贓物であるビール350ml缶1つと漫画雑誌1冊を所持しているから2号に該当する。また、「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるとき」とは、被害者等の供述も含めた総合判断により犯行と犯人の結びつきが誤認逮捕のおそれが少ないと認められる程度に明白であり、かつ逮捕の着手まで2時間程度以内で時間的に接着し、かつ犯人の移動手段等から判断して逮捕に着手した場所が犯行現場から誤認逮捕のおそれが少ないと認められる程度に場所的に接着していることである。

これを本件についてみると、犯行から逮捕までぎりぎり2時間程度以内ということができるから、時間的接着性が認められる。また、贓物と同じ物を所持しているだけでなく、投げやりになったXが自らこの二点を手提げカバンから出したこと、W1とW2が警察官に事前に述べた青あざや服装といった身体的特徴と合致していること、W1とW2が犯人に間違いないと述べていることを総合すると、犯行と犯人の結びつきが明白であると認められる。また、Xが2時間15分後警察官Lにより発見された場所は1km先に満たないから、Xが徒歩で移動したことを考慮しても場所的接着性が認められる。

これに対して、弁護人としては、ビール350ml缶1つと漫画雑誌1冊というありふれていて贓物そのものであると物じたいからは特定できない物を所持していたこと以外で、犯行と犯人の結びつきの明白性の判断の資料となるものは結局はW1とW2の供述のみであって、誤認逮捕のおそれが少ないと認められる程度の明白性は認められない、目撃者の供述について逮捕の現場で信用性を正確に吟味することは不可能である*1と反論することが考えられる。また、田宮刑訴p.77によれば、数時間経過した場合には「間がない」には当たらないから違法な逮捕であるとか、本件のように時間的接着性がぎりぎりの事案では他の事情による明白性の基礎づけがかなり強く要求されるはずだと反論することが考えられる。

 2.刑訴法60条1項は、明文では勾留の相当性を要件として定めていないが、比例原則に適合するように解釈すれば、相当性は勾留の要件であると解される。そして違法な逮捕を甘受させた者にさらに後続の強制処分を甘受させることは相当性を欠く*2から、勾留請求は却下されるべきである。なお、相当性が勾留の要件でないとの解釈によっても、逮捕前置主義を定める204条1項を根拠に勾留請求は却下される。

3.刑訴法429条1項2号による勾留決定に対する準抗告をするか、刑訴法88条による保釈請求をすることが考えられる。

4.刑訴法210条は「直ちに」と定めているから、逮捕後7時間以上経過したこの令状請求は違法である。

5.既に勾留されているから、刑訴法429条1項2号の準抗告をする。

刑訴法199条にいう通常逮捕をするには、嫌疑が「相当な理由」といえる程度にあり(1項)、かつ「明らかに逮捕の必要がない」とはいえない(2項)程度に逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれがあり、かつ明文の定めはないが身体拘束に相当性があり比例原則に違反しないことが要件となる。

これを本件についてみると、身体拘束は極めて重要な利益の侵害であるところ、Xは一度は緊急逮捕令状請求のために身体拘束を受けているのだから、なんら逮捕の基礎となる事情に変更のない本件において、Xを通常逮捕してさらなる身体拘束を行うことは、相当性を欠く比例原則違反であり、違法である。仮に直ちに違法とまではいえないとしても、従前の身体拘束期間を考慮したうえで自由権規約9条3項(裁判官の面前に速やかに連れて行かれる権利)を間接適用して比例原則を適用すべきであって、たとえば勾留請求まで72時間をぎりぎり超えない時間の身体拘束をすれば形式的に刑訴法203条1項並びに205条1項及び2項に違反していなかったとしても、相当性を欠く長期の身体拘束として比例原則違反の違法である。

先行する逮捕手続が違法であるとき、さらに後続の身体拘束手続を甘受させることは相当性を欠き、本件勾留は比例原則違反の違法である。(あるいは逮捕前置主義を定める刑訴法204条1項違反である。)

6.警察官らが「直ちに」といえる期間を超過してしまったのは、Xが自発的に始めた弁解を録取していたためであって、警察官に身体拘束期間の制限を潜脱する意図はなかったと主張することが考えられる。これに対して、弁護人は、緊急逮捕の要件である嫌疑は、緊急逮捕を執行する時点での嫌疑であって、緊急逮捕後に録取した供述は疎明資料とならないとか、警察官に取調べのための持ち時間を稼ぐ意図があったと主張することが考えられる。

7.逮捕前置主義を定める刑訴法204条1項に違反する。当初の事件による勾留と別事件による逮捕・勾留が重なることとなる(いわゆる二重勾留)が、別の事件について逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれが認められないのが通常と考えるべきである*3

8.刑訴法208条1項の反対解釈により、起訴後、勾留中の被疑者は、当然に裁判所の職権による被告人勾留に移行する。なお、白取刑訴によれば、この際に勾留の必要性が低下していないか判断するため勾留質問をすべきである。

 

発展問題

1.出頭の求めについては刑訴法199条1項但書きに定めがあるが、これを捜査段階における出頭確保のための逮捕を認めた規定と解する見解がある。しかし、出頭確保それ自体を理由とする逮捕をみとめることは取調べ目的の逮捕を認めるに等しいからこの見解は採用できない。

もっとも、出頭要請を何度しても応じない事実は逃亡のおそれは推認させるから、適法に逮捕できる場合があるとする見解がある(判例もこのような推認を認める)。これによれば、裁判官は逮捕令状を発布すべきである。しかし、不出頭が重なるから逃亡のおそれがあるとする経験則があるかは疑わしいし、出頭を拒むことができると定める198条と整合しない。裁判官は、不出頭の事実以外から逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれを判断すべきである。

2.逮捕という比較的短期の身体拘束が前置されているにもかかわらず、さらに身体拘束をするということは、勾留の必要及びそれに応じた身体拘束の相当性が厳しく判断される。

これに対して、二度の司法審査により身体拘束について慎重を期しているとする見解によれば、勾留状発布においては、比例原則違反の有無ではなく、嫌疑の有無がより厳しく判断されそうである。しかし、この見解は199条1項の通常逮捕の「相当な理由」という文言と60条1項の勾留の「相当な理由」という文言に異なる意味をあえて読み込むほどの説得的な理由づけとはいえないから採用できない。

3.

 

コメント けっこう分からない。

*1:中島宏「現行犯逮捕」法教2019.1p.15

*2:中川『刑事訴訟法の基礎』p.60

*3:中川p.78