予備試験とか

30歳までに弁護士になって岐阜帰還することを目指しています。地方自治、法と言語に興味があります。

Ⅲ-1

(1)(a)(ア)

XはYに対して、金銭消費貸借契約(民法587条)にもとづく貸金返還請求をする。

2005年2月8日、XがYに200万円交付したことに争いはない。また、Xの言い分によれば、2月7日に「200万円貸してくれないか」とYに頼まれ、Xが「200万円くらいなら貸してやる」と応じることで、返還の合意が成立している。よって、Xの言い分によれば金銭消費貸借契約が成立している。もっとも、利息の特約が付されていないから、利息を請求することはできない(年20パーセントの利息を支払えというXの言い分は認められない)。

本件金銭消費貸借契約は期限の定めがないので、民法591条1項が適用される。Xは2006年3月4日、「いいかげんに200万円を返してくれ」と述べて、明示的には期間を定めることなく返還の催告をした。この催告は、客観的にみて相当な期間を経過するまでの間に200万円を返還してほしいという趣旨を黙示しているといえる。

200万円金銭消費貸借契約の成立、2006年3月4日の催告、2006年4月14日までの1か月と10日間で、客観的にみて相当な期間が経過していたことを主張立証することで、Xは200万円の返還を請求することができる。

あわせて、催告後客観的にみて相当期間経過後の貸金返還債務不履行による損害賠償(民法415条)として、未返済額に年五分を乗じた額の金員を支払うことを請求する(民法419条、404条)。

 

コメント ウェブページ「松岡久和研究室」に解説がのっているので、1(a)だけ答案をアップします。とくに不当利得の問題は、自分の知識と手もとの資料だけでは、まったく解けませんでした。

Ⅰ-3

普通預金口座aの普通預金契約の当事者は、保険代理店Aと信用組合Yである。口座の名義が「X代理店A」とされているだけではXを本人とする代理人による顕名があったとは認められない。そうすると、預金債権甲の債権者は普通預金契約の当事者であるAであると解される。

しかし、本当にそう解すべきかは、定期預金債権をはじめとして判例が展開してきたいわゆる客観説をふまえると検討を要する。客観説とは、預金の出捐者が預金債権者であるとする説であり、普通預金契約の当事者以外の者を預金債権者とすることを肯定する結論になる。私見では、普通預金契約には客観説を適用すべきではないと考える。

定期預金契約は預入金が最終の残高と一致しているから出捐者を確定して預金債権者とみることができた。これに対して普通預金債権は入金の度に債権の個数が増えるのではなく、債権としての同一性を保ったままその額が変動する性質をもっており、それにも関わらず一般的に、入金の度に出捐者が異なることもあり得るから出捐者が誰かという観点から処理するのは限界がある(内田)。

 

Xは、Aの無資力により、Xの保険料債権を被保全債権として債権者代位権(民法423条)により払戻しを請求することが考えられる。

普通預金債権甲の債権者がAだとすると、信用金庫Yは、YとAとの契約にもとづく期限の利益喪失により履行期が到来した貸金債権乙と預金債権甲とを相殺する意思表示をして相殺の抗弁を主張することができる。これについては、YA間の契約の当事者でない第三者Xが不利益を被るのは不当のようにも思えるが、銀行との消費貸借契約に期限の利益喪失特約が付されていることは公知のことだから、相殺の期待が保護されるべきで、やはり結論にかわりはない。

これに対して、Xはどのような再抗弁を主張できるか。

・保険契約者を委託者、Aを受託者、Xを受益者とする信託契約が成立していて、かつ預金債権甲は信託財産に属するから、固有財産に属する貸金債権乙と相殺することができない(信託法22条1項柱書本文)。

ここで、保険契約者とAとの信託契約が成立していたかが問題となる。設問によれば保険契約者が信託を設定する意思を明確に表示したとは認められないが、保険契約者とAとの契約の性質が信託契約であることはあり得るから検討を要する。信託法上の義務だけであれば委任に関する民法の規定の適用によっても導くことができるから、信託の特色は受益者がうける特別な物権的救済にある。財産権の移転(設問では保険料としての金銭の引渡しによる金銭の所有権の移転)、当該財産についての委任(保険契約に関する事務の委任)(信託法2条1項)に加えて、分別管理義務が契約の内容となっているときには信託設定の明確な意思表示がなくても、信託契約の成立を認めるべきである(道垣内)。

設問について検討すると、XとAとの契約において分別管理義務が契約の内容となっていたとしても、保険契約者とAとの契約の内容となっていたと認めるべき事情はないから、信託契約は成立しておらずこの再抗弁は認められない。

 

コメント なるべく無難な見解をとるように、預金者の認定に関するややこしい議論に立ちいらなくてもよいように注意しました。「明確な意思表示がなくても」というのは、出版権の設定を否定した太陽風交点事件東京高裁判決のように、物権的権利の設定には明示的な意思表示が必要とされるところ、信託受益権の設定の場合その必要はないという趣旨です。

Ⅰ-2

(1)(a)

XのYに対する甲の所有権に基づく物権的返還請求権。

①甲のX所有。・甲所有権の登記名義人はYでありYの甲所有権が事実上推定されるが、Aに甲所有権の処分を授権したことはないから、事実上の推定が覆され、甲の登記の権利部で前主とされるXが真実の所有者である。

②甲のY占有。

XのYに対する甲の所有権に基づく物権的妨害排除請求権としての登記の抹消の手続の請求権。

①甲のX所有

②甲にY名義の登記がある。

(b)

・甲のX所有の否認。XはAに甲所有権の処分を授権していたと反論することとなる。

民法110条に基づく抗弁として、

①XYの甲売買契約を締結する意思をAが表示したこと

②その際AがXのためにすることを示したこと

③YがAに代理権があると信じたこと

④2004年4月10日甲売買契約に先立ち、XがAになんらかの代理権を授与したこと、設問に即していえば甲に抵当権を設定する物上保証契約を締結する代理権の授与をしたこと。なんらかの代理権の授与又は後述の代理権授与の表示は、表見代理の責任を認めるために最低限必要な本人の帰責性である。

⑤「代理人の権限があると信ずべき正当な理由がある」こと、すなわち甲所有権処分の代理権が存在することに対するYの信頼の正当さと本人Xの帰責性とを総合考慮して「正当な理由」があると認められること。「正当な理由」の評価根拠事実に、委任状の他に甲の権利証、Xの実印と印鑑証明書といった代理権を象徴するものをAがもっていること、甲の売買と甲に抵当権を設定することが甲の処分という点で同質であること。また、委任状に委任事項「甲の処分に関する一切の事項」受任者「A」と書き込まれていればこれも評価根拠事実になる。

民法109条を基礎として重畳的に110条を適用して、これを抗弁として主張することができる。④にかえて、XはAに白紙委任状を交付することにより、甲に抵当権を設定する物上保証契約の締結についてAに対し代理権授与したことを表示したことを主張立証する。

(c)

「正当な理由」があることの評価障害事実。委任状が白紙委任状であれば、それにも関わらず本人Xに直接問い合わせるなどして甲所有権の処分を一任する代理権が本当に存在するか確認していないこと。

 

仮にXが重度の認知症によって、4月7日Aに対して甲に抵当権を設定する代理権を授与した当時に意思能力を欠いていた場合はどうか。

民法110条に基づく抗弁は、再抗弁として④基本代理権の授与が無効だったことを主張立証した場合には、Yの主張は認められないこととなる。

民法109条と110条の重畳的適用の抗弁は、Aが代理権授与の表示をした当時に重度の認知症の症状あったことが、本人の帰責性を否定するほうにはたらき、(c)「正当な理由」の評価障害事実となるから、やはりYの主張は認められないこととなる。

 

(2)

民法109条及び110条は、Yのような取引の相手方を保護する趣旨の規定だから、無権代理人の取引行為により移転したかのような外形をもった物権の転得者は、「第三者」に当たらない。

設問によれば、Xが甲に抵当権を設定する代理権をAに授権する趣旨で白紙委任状、甲の権利証、Xの実印、その印鑑証明書をAに交付したというXの帰責性のある行為により、甲に抵当権を設定するというXの意思と対応しない外形(不実の所有権移転登記)が作出され、この登記を信頼したZがYと甲売買契約を締結している。登記による外形が意思と対応しない以上は虚偽表示に関する94条2項を単に類推適用するのではなく、Xの帰責性とZの信頼の正当さを比較考量するために110条の法意も考慮にいれる。

ZはYとの6月1日売買契約により甲所有権を取得しようとした。設問の6月1日取引行為のときに甲所有権の登記名義はYにあった。ZはYが所有者であると信じていて、かつZが信じたことは登記によるものであって「正当な理由」があるといえる。この他に「正当な理由」を否定する事情はない。

よって、Xの所有権に基づく甲返還請求と、登記の抹消の手続の請求は認められない。

もっとも、Zが不動産業者でAとYの取引に同席していたとすれば、専門の不動産業者にもかかわらず本人Xに代理権の存在を確認をしなかったことが、「正当な理由」の評価障害事実となり、Xの請求が認められる。

 

コメント 潮見全の知識があれば解ける問題でした。総合考慮説の論証のしかたがいまいち分からない。

Ⅰ-1

Yの担当者Aは、会社法14条により当然に本件売買契約の代理権を有する。民法101条1項により、法人Yの故意、重過失その他の主観は原則として担当者Aが判断基準となる。しかし、民法101条1項と2項(改正民法では3項)をあわせた全体の趣旨は、意思表示をすることやその内容を決定した者の主観を判断基準とする点にあると解すべき*1だから、公園の計画もXとAの交渉過程も知りつつ甲4売却をすすめた者がY内部にいれば、その者の主観を判断基準とすべきことをXは主張できる。

 

(1)(a)

Xは甲4を買う意思を欠いていたわけではないが、甲4売買契約の申込みの基礎とした事情である眺望がよいことについての認識(動機)を、2002年3月1日担当者Aに「ここの空き地にマンションでも建てば、せっかくの景観も台無しですね」と述べることで表示しており、担当者により同日された説明をもふまえると担当者が動機を認識し、(承諾し、)眺望が良いことが甲4売買契約の内容となっていたといえる。

したがって民法95条により錯誤無効を主張することができる。

Yが主張できる抗弁として、表意者Xの重過失があるが、そのような事情は認められない。

 

(b)

詐欺の要件は①だます意思、②錯誤によってXに申込みの意思表示をさせる意思、③欺罔行為とXの申込みの因果関係、④欺罔行為の違法性、である。

まず、欺罔行為の違法性があったかを検討する。

担当者Aが3月10日「その空き地は国有地で、公園を作る計画になっている」と述べたことじたいはAが当時知っていた情報に照らして虚偽でなかったのかもしれず、④違法性が認められないか、認められるとしても①Xをだます意思を欠く。

Yが契約締結より前の3月10日に不動産業者に空き地を払い下げる計画があることを知っていたのにXに告げなかったことは、欺罔行為の違法性の要件に該当するか。契約締結をするか否かの意思決定に向けた情報収集は自己責任が原則であって、沈黙したことが欺罔行為の違法性の要件に該当することはないようにも考えられる。しかし、契約締結のための意思決定の基盤確保のために、当事者は契約を締結するか否かの判断に通常影響を及ぼす事項(特に価格に影響を及ぼす事項)について信義則上情報提供義務を負い、これに違反することは違法性の要件に該当すると解すべきである。「公園を作る計画になっている」と述べた先行行為があるからYは眺望というマンション売買契約を締結するか否かに通常影響を及ぼす事項についてXに告知すべきであり、先行行為がある以上は取引に不可欠な駆け引きの限度を超えて信義則上の義務である。Yが不動産業者に空き地を払い下げる計画を知りながらXに告げなかったことは④欺罔行為の違法性の要件に該当する。

眺望のよしあしはマンションの取引において重要な事項であるにもかかわらずYにあえて計画のことを告げなかったことから、Xには情報をかくして①だます意思があったと推認され、加えて相場よりも高い価格で売買契約をしていることから眺望に関する②錯誤によってYに申込みをさせる意思もあったと推認される。

相場より高価にもかかわらず売買契約を締結したこと、担当者Aに「ここの空き地にマンションでも建てば、せっかくの景色も台無しですね」と尋ね、契約締結前の3月10日空き地の登記を調べるなどXが眺望を重視していたことから、③因果関係が推認される。

したがって、Xは96条1項により取消しの意思表示をして甲4売買契約を取り消すことができる。

 

 (c)(ア)

Xは個人であり、不動産取引を「事業として」いないし、居住用にマンションを買ったXは「事業のために契約の当事者となる」者にも該当しないので消費者に当たる(消契法2条1項)。

信用金庫Yは法人(信用金庫法2条)だから、事業者に当たる(消契法2条2項)。

よって、甲4売買契約は消費者契約(消契法2条3項)に当たる。

(イ)

Xは消契法4条1項1号により甲4売買契約を取り消すことができるか。要件は①重要事項(消契法4条4項、設問では1号が問題となる。)について、②Yが不実告知を勧誘の際にしたこと、③不実告知によるXの誤認、④誤認によるXの申込みである。

甲4の前の空き地乙は「契約の目的となるもの」ではない。しかしマンションからの眺望は「契約の目的となるものの質」に当たる。また、マンションからの眺望はマンションの売買契約を締結するか否かに「通常影響を及ぼすべき」ことに当たる。よって、眺望は①重要事項に当たる。契約締結前の3月10日、空き地乙を払い下げる計画があるということに反してAが「公園を作る計画になっている」と述べたことは②勧誘の際の不実告知に当たる。Xは、乙空き地に高層マンションが建っては甲4を買った意味がないと考えていることから③不実告知により誤認していたことが推認される。加えて甲4が割高なこと、Xが眺望を重視する言動をしていたことから④誤認により申込んだことが推認される。よって、Xは消契法4条1項1号により取消しの意思表示をして甲4売買契約を取り消すことができる。

Xは消契法4条2項により甲4売買契約を取り消すことができるか。要件は①重要事項又は関連する事項について、②勧誘の際にYがXの利益となる旨を告げたこと、③その後当該重要事項について不利益となる事実を告げなかったこと、④③の故意、⑤③と④によるXの誤認、⑥誤認によるXの申込みである。

マンションの眺望は①重要事項に当たる。甲4売買契約締結前の3月10日、Aが「ここの空き地にマンションでも建てば、せっかくの景色も台無しですね」と尋ねたのに答えXが「公園を作る計画になっている」と述べたことは②眺望について利益となる旨を勧誘の際に告げたことに当たる。その後、空き地乙を不動産業者に払い下げる計画があり眺望が損なわれるおそれのあることを知りながらYはそれをXに告げなかったことは、③④故意(又は改正消契法によれば重過失)の不利益事実の不告知に当たる。⑤、⑥も消契法4条1項1号不実告知について述べたとおり認められる。よって、Xは消契法4条2項により取消しの意思表示をして甲4売買契約を取り消すことができる。

(2)

設問によれば5月1日にXは甲4の引渡しを受けているから、Yの甲4売買契約にもとづく債務は履行されているようにも思える。民法555条も売買契約の要素を「財産権を相手方に移転する」と定めている。したがって、契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき事項を告げなかった信義則上の情報提供義務違反にとどまるならば(不法行為責任を負うことは格別、)債務不履行には当たらない(最判H23.4.22民集65巻3号1405頁)。しかし、甲4の眺望が一定程度保証されることは、本件の具体的事情の下ではXと担当者Aのやり取りにより契約の内容となっており、すぐに空き地乙に高層マンションが建つと、眺望のよい甲4を買うという本件売買契約の目的を達成することができない。したがって、債務の一部履行不能として民法543条により甲4売買契約を解除することができる。

 

コメント 情報提供義務については、M&A交渉に関する商法学者の研究もありますが、情報提供義務の論証をどう書くべきか悩ましいです。この事例は不実の情報を開示する先行行為があるのでわりと書きやすいですが。。。情報提供義務のところで宅地建物取引業法47条1号ニがつかえないので、そこで答案を書く手がとまってしまいましたが、債権法改正の資料を読みながらあらためて書いてみました。(2)も契約責任説での答案の書き方とか用語の使い方がいまいちわかりません。民法101条適用の論点もあるのでしょうか?

関係する論点がまとまっている文献としては、池田清治「契約締結過程の民事責任論と消契法3条」法教441号

*1:二宮照興1992「法人の善意又は悪意について」日本法学58巻1号145頁p.150

Ⅱ-2

(1)(a)

①Xの甲土地所有

・Xは甲土地所有権の登記名義人である。

②甲土地をZ所有の乙建物により占拠している。

①②により、物権的返還請求権として、Zに対して乙建物を収去して甲土地を明渡すことを求める。

 

Zは①に反論してして登記による事実上の推定を覆すこととなる。そのために、抗弁としてZが甲土地の占有権原を取得するまでの来歴を主張立証する。

・甲土地はPがもともと所有していた。(このことは争いがない)

・1980年5月5日PからAへ甲土地が贈与された。

・1992年4月4日Aが死亡し相続を原因としてYが甲土地所有権を取得した。

・2001年12月12日YZ間の甲土地賃貸者契約に基づきZが甲土地の占有権原を取得した。

Xは1980年5月5日贈与契約を否認するとともに、再抗弁として2001年1月10日PからXへ甲土地所有権を移転する旨の売買契約が締結され、同日登記を備えて対抗要件を具備し、177条により確定的に所有権を取得したことを主張立証する。この主張は認められる。

 

Zは抗弁として、1980年5月5日にAが過失なく開始した甲土地の占有により1990年5月5日にYが時効取得していたとして時効を援用(民法162条2項、186条)すること、1980年5月5日にAが開始した甲土地の占有によりYがAの占有を承継(民法187条1項)していた2000年5月5日には甲土地をYが時効取得していたとして時効を援用すること(民法162条1項、186条)、1992年4月4日Yが過失なく開始した固有の占有にもとづいて2002年4月4日に甲土地をYが時効取得したとして時効を援用することが考えられる。なお、どの取得時効を援用するかは対抗問題、立証の難易度、登記手続の手間などを考慮して援用権者が選択することとなる。

A開始の占有による時効取得の抗弁に対する再抗弁として、時効取得後の2001年1月10日にPX間で甲土地売買契約が締結され対抗問題となり、同日登記を備えて177条によりXが確定的に甲土地所有権を取得したと主張立証することが考えられる(判例の登記尊重説に基づく主張)。これに対し、10年あるいは20年以上の占有の方がかえって他の者の登記によりその権原を失うおそれが大きいというのでは継続した占有を尊重する取得時効制度の趣旨に反するから、時効取得の起算点は権利を得る者が自由に選択でき177条の対抗問題となる余地はないとする見解があるが、登記の公示力を尊重する観点から妥当でない。

再再抗弁として、時効取得の要件となる長年の占有などを知っていて時効取得につき悪意であり、かつ所有権取得の態様が背信的で177条にいう「第三者」として登記による対抗要件具備を主張することが信義則に反する事情があると主張立証することが考えられる。しかし、XがPの説明をうけてYの占有を他主占有だと思っていたとすると、時効取得について悪意であったとは認められない。 どちらの理由に基づくとしても、Xは登記の具備により確定的に所有権を取得しており、Zに対する乙建物収去と甲土地明渡しの請求は認められる。

これに対して2002年4月4日時効取得の援用を選択すれば、対抗問題とならないからXの請求は棄却される。

 

(b)

乙建物所有権の登記名義人Yは、2001年12月12日売買契約による乙建物所有権の喪失をYに対抗できない。その根拠は177条が「得喪」という文言を用いているからである。したがって、Xの請求が認められるとYの費用負担で乙建物を収去し甲土地を明渡す義務をXに対して負うこととなる。

 

コメント  もう少し設問の事実に即して当てはめをしたほうがよさそう。二重譲渡と時効取得で有利な方の法的構成を選択できるのでしょうか?参考判例がいかせてないのも引っかかる。

Ⅱ-1

(1)(a)

①Xが所有権を取得するまでの所有権の来歴を主張立証する。

・甲土地はもともとAが所有していた。

・2003年7月7日A所有の甲土地をBが買い取る旨の契約を締結しこのときBに所有権が移転した(民法176条。そうでないとしても同日の引渡し又は所有権移転登記のときにBに甲土地所有権を移転するのが当事者の合理的な意思であろう。)

・10月14日に催告による解除(民法541条)による解除の意思表示がなされ、民法545条1項により、遡及的に7月7日売買契約の効力が失われA所有となった(判例の直接効果説)、あるいは解除の債権的効果として所有権がAに移転した。

・11月1日贈与契約によりAからXに甲土地所有権が移転した。したがって甲土地はX所有である。

②Yが甲土地所有権の登記名義人となっている。

X所有にもかかわらずY所有の登記がなされており、Xはこのような物権の効力からみて是認できない登記の状態を是正するために所有権に基づく妨害排除請求権として、物権的登記請求権を行使する。

(b)(ア)

Yは(a)①Xによる甲土地所有に反論する。そのために、Xが主張する所有権移転の原因のいずれかについて否認するか、Xの主張しない所有権移転の原因を主張立証することとなる。設問についていうと、Xは遅くとも8月7日に、Bとの売買契約に基づき甲土地所有権を取得したと主張立証する。

ここで、10月14日のAとBとの甲土地売買契約解除がどのような意味をもつと考えられるか。解除はAB間での債権的効果しか有しないとすると、以上の事実のみによって、Yの抗弁が成立する。他方、直接効果説によると、Yは、Bが無権利者であったにもかかわらず545条但書きにより「第三者」として所有権取得を保護されることを主張立証する必要がある。そして、第三者として特に保護に値するといえるには、Bがいわば権利資格保護要件として登記を備えている必要があると解される。

Yは10月14日解除より前の8月7日所有権移転登記により登記名義人となっているから、545条但書きにいう「第三者」に当たる。

 

(2)(b)(ア)

解除によるBからAへの復帰的物権変動を観念することができる(解除の遡及効を認める見解に立つとしても遡及効擬制に過ぎず、やはり復帰的物権変動を観念できる。)とすると、後から現れたYとは二重譲渡類似の関係にあり、民法177条により対抗問題となると解される(判例)。設問についていえば、登記を備えたBが確定的に甲土地所有権を取得する。

これに対して、民法545条1項但書きを、解除による原権利者Aへの物権変動の復帰を阻止して第三者への権利移転を可能にする規定と解する見解(新注民)によれば、解除との先後や登記の有無を問うまでもなくBが甲土地所有権を取得するが、登記の公示力を尊重する観点から妥当ではない。

(イ)

民法177条により後から現れたYが「第三者」として甲土地所有権取得を主張し得るのは、誰が先に登記を備えるかの自由競争の枠内にある「第三者」だからである。YがBからAへの所有権復帰を知っていたとしても、177条が「善意の第三者」ではなく単に「第三者」と定めている以上、Yは登記を備えることで確定的に所有権を取得する。

もっとも、Yが悪意でかつ所有権取得の態様が信義則に反し背信的な場合には、自由競争の枠内にあるとはいえないから甲土地所有権の取得を主張できない。

設問についていえば、Yの悪意に加え、競業者を困惑させるという反倫理的な動機にもとづいて所有権を取得したことを背信性の評価根拠事実として主張立証することが考えられるが、競業者の事業活動を不当に妨害しようとしたわけではなく単にXを困らせてやろうとしているに過ぎないから、背信性を認めることはできない。

 

(3)(b)(イ)

Yが所有権を確定的に取得した以上、その承継者であるDの権利主張が否定されることはない。いたずらに法律関係を錯綜させるおそれがあるからである。

仮に前主Yが背信的悪意者であったとしても、背信的悪意者は無権利者ではなく、自己の権利主張を否定されるにすぎない。Yから権利を取得したDは単純悪意者であるとは認められるが、設問からは背信性を根拠づける事情は認められない。

 

コメント  ひとりでやってるので、これが正しいのか全く自信がない。コメントがほしい。。。

潮見『民法(全)』を一通り読んだ

読みました。

例えば、砂山晃一「与信取引法」みずほホールディングスほか『金融法講義』で言及されているような判例はあまり言及されていないですが、そのおかげで読みやすいのかもしれません。

 

そろそろ民訴を頑張ります。